ブレイディみかこ「30代シングルの銀行員が、子育て支援サイトを見て依存症に。英国の掲示板で感じた暗いパワー」
イギリス在住のブレイディみかこさんが『婦人公論』で連載している好評エッセイ「転がる珠玉のように」。Webオリジナルでお送りする41.5回は「子育てサイトの闇」。英国には子育て支援サイト「マムズネット」がある。子育て中のお母さんたちがよく覗いているサイトだが、そこには別の顔があって――。 * * * * * * * ◆サイトのウリは掲示板 英国に「マムズネット」という子育て支援サイトがある。「マム」という言葉を名前に使っていることからもわかるように、子育て中のお母さんたちがよく覗いているサイトだ。 このサイトのウリは掲示板である。「妊娠」や「赤ん坊の名前」から「美容」「不動産」まで、多様な話題のスレッドがあり、ユーザーから投稿が寄せられている。 かくいうわたしも、子どもが小さいときに何度か覗いたことがあった。「子どもが食べない」とか「学校選びをどうするか」とかいう現実的な問題で、他の親たちの経験談が読みたかったからだ。しかし、すぐにやめてしまった。いろんな人がいろんな意見を書いていたので、人それぞれなんだな、とわかり、なんとなく逆に安心したからだ。
◆知人との会話で話題に そのマムズネットの話題が、知人との会話で出てきた。同年代のその女性は、連合いの元同僚のパートナーで、むかしはパーティーなどの集まりでよく一緒になった。久しぶりに共通の知人の葬儀で会い、その後で、女性ばかり数人でパブに行った。 「うちの娘はシングルで子どももいないのに、マムズネット依存症になって大変だったのよ」 と知人の女性が言った。もう一人の葬儀参列者の女性も頷く。 「あー、あのサイトは気をつけないとね」 「どうして気をつけないといけないんですか?」 わたしはそう尋ねてみた。 「鬱になったり、メンタルをやられる人がいるらしいもんね」 「うちの娘もカウンセリングを受けて、ようやくサイトを見なくなった」 2人はそう言って、互いに顔を見合わせている。 「お嬢さん、いまおいくつでしたっけ」 とわたしが尋ねると知人が答えた。 「32歳」 「わー、早いもんですね、よくお会いしてたときは高校生だったのに」 「あれからロンドンの大学に行って、いまは銀行に勤めているの」