警察が「酒鬼薔薇聖斗」を逮捕するまで――少年の情報を知るのは15人のみ、最後の事件は「久々の休み」のあとに起きた
---------- 30年を超える記者生活で警察庁・警視庁・大阪府警をはじめ全国の警察に深い人脈を築き、重大事件を追ってきた記者・甲斐竜一朗が明らかにする刑事捜査の最前線。最新著書『刑事捜査の最前線』より一部を連載形式で紹介! 【前編はこちら】日本中を震撼させた「神戸連続児童殺傷事件」。その時警察は 前編記事<5月27日早朝、中学校の正門で遺体の一部を発見。日本中を震撼させた「神戸連続児童殺傷事件」。その時警察は> ----------
少年の情報を知るのは15人だけ
翌日から、この少年に的を絞った極秘捜査が開始された。少年の存在を知っていたのは捜査本部内でも刑事部長の深草、捜査1課長、調査官、課長補佐2人と捜査員1個班の計15人だけ。社会を恐怖に陥れた連続児童殺傷事件の容疑者が中3の男子生徒――。 影響の大きさから情報共有は最小限に絞り、県警本部長にも当初、情報を上げなかった。「情報が漏れたらこの15人の誰かだからな」。互いにそう言って保秘を徹底したという。須磨署の捜査本部とは別に捜査員の知人宅に「裏捜査本部」を設けて少年をマークした。 一方で捜査本部の他のほとんどの人員は、少年が容疑者から外れた場合に備え、別の捜査に振り向けられていた。一時は容疑者として有力視された「黒いゴミ袋の男」の目撃情報が中学校周辺であり、「つぶしの捜査」も必要だった。 6月21日の土曜日に捜査会議が開かれた。調査官がそれまでの捜査結果を報告し、深草が少年の任意同行を1週間後の28日に決定した。少年が対象なので両親が在宅している可能性が高い土曜日を選択した。その日両親がいなかったら翌29日の日曜日に変更することも決めた。 神戸連続児童殺傷事件は、(1)小6女児2人がハンマーで殴られる殴打事件(2月10日)、(2)彩花さんが金づちで殴られ1週間後に死亡し、近くで小3女児が腹を刺される連続通り魔事件(3月16日)、(3)タンク山での淳君殺害事件(5月24日)――の三つの事件に分かれている。深草らは任意同行した少年が取り調べで三つの事件すべてを否認した場合の対応策を検討した。 否認のまま逮捕できるだけの証拠があるかどうかという観点から、(1)については「被害者による目撃情報は証拠価値が高い」として、小6女児に対する傷害容疑での逮捕か家宅捜索を対応策として練ったという。 任意同行(任同)に入ったのは28日午前7時。懸案事項として両親が任同に抵抗することも考えられるため、捜査1課で最も説得がうまいとされた捜査員に加え、少年課の捜査員も付けて任同にあたった。少年を乗せた車は同7時20分には兵庫県警本部に到着。取り調べは捜査1課のエースとされる捜査員が担当した。深草も同9時には県警本部に入り、報告を待った。