ついに東京都がマジ対策に乗り出した!! 「カスハラ防止条例」は悪質クレーマーを撃退できるのか!?
■クレームは「ひと儲けするため」 こうした迷惑行為の蔓延について、消費者と企業とのトラブルに詳しい弁護士の香川希理氏はスマホとSNSの影響が大きいと話す。 「消費者は対価を払って企業から商品を買ったり、サービスを受けたりします。その内容に不満があれば、企業と対立しますが、この関係において、かつては企業側が圧倒的に強かったんです。消費者のクレームがいきすぎだと感じれば、突っぱねるだけでよかった。 しかし、消費者がスマホとSNSという武器を手に入れたことで、立場は逆転しました。スマホのボイスレコーダーアプリを使えば、企業側担当者の発言を逐一録音可能で、SNSに音源をアップロードして他者に相手の非をアピールすることもできる。企業側は言葉遣いに注意を払いつつ、できるだけ炎上を避ける、腰の引けた対応が目立つようになりました」 コールセンターの運営指導やオペレーター教育を手がける大西美佳氏は、コールセンターにもSNSと連携した新手の迷惑行為が目立ってきたと話す。 「企業のお客さま向け窓口であるコールセンターは、当初から迷惑行為に悩まされてきました。製品やサービスについて不満を持つお客さまとトラブルになり、『殺すぞ』『帰り道に気をつけろ』など、不穏当な言葉を投げかけられることは、ずっと続いています。 ただ最近になって目立つようになったのが、『炎上狙い』『バズり狙い』のクレームです。かつてSNSへの音声の公開は、自分の正当性を主張するため、もしくは愉快犯的な動機によるものがほとんどでした。 ところが23年7月にスタートしたXの『収益化』に代表されるように、閲覧数が収入に結びつくようになったため、ひと儲けを考える人々がコールセンターにクレーム電話を入れ、失言を引き出し、SNSにアップロードするという動きを見せています」
■悪質カスハラへの罰則はどうすべき? では、東京都の条例制定により、過激化する迷惑行為、収益化を狙った迷惑行為を減らすことはできるのだろうか。 自治労は、東京都のこの動きを、カスハラ撲滅の第一歩として評価するという。 「自治労は昨年作った『カスタマーハラスメント予防・対応マニュアル』をもとに、各自治体の職員組合を回り、カスハラ対応への周知活動に取り組んでいます。 ただ自治体ごとにカスハラの実態、対応は異なるため、各自治体がそれぞれに『カスハラ防止条例』を作り、カスハラ撲滅に動くことが必要ではないかと考えています。 やはり理想は国が法律でカスハラを定義し、きちんと規制してもらうことですが、東京都が条例を作れば、地方自治体の職場も『民間に準じる基準』ということで、対応しやすくなります。また、東京都の条例を参考に独自の条例を作ることもあるでしょう」(自治労総合労働局) さまざまな迷惑行為に悩むドラッグストア業界は、条例化の動きをこう評価する。 「会社単位の努力では限界があります。やはりこうした条例で『ダメなものはダメ』と、はっきりさせていただければ、警察との連携もよりスムーズになります。できれば罰則を設けてほしいですね」(日本チェーンドラッグストア協会) とはいえ現実問題として、罰則にまで踏み込むのはなかなか難しいというのが、前出の香川氏の意見だ。 「罰則を設けるとなると、ほかの条例や法律との整合性を考える必要もあり、時間がかかると思います。また、いきなり罰則ということになると、どこまでが正当なクレームで、どこからがカスハラなのか、きちんと線引きするという難しい問題も出てきます。 まずはスピード重視で罰則なしの条例を公布、施行し、その次に罰則ありの条例や法律を将来的に目指すことになるのではないでしょうか」 ただ香川氏は、罰則まではいかなくとも、〝氏名の公表〟は考えられるという。 「参考になるのが、滋賀県米原市で昨年4月に施行された『米原市不当要求行為等対策条例』です。 これは米原市の事務事業、職員に対する不当要求行為等への対応や防止措置を定めたもので、『正当な理由なく、特定の個人または法人その他の団体に対し有利または不利な取り扱いを要求する行為』『正当な理由なく、職員を長時間拘束し、または面会を要求する行為』『粗野または乱暴な言動により職員に嫌悪の情を抱かせる行為』などを不当要求行為等として列挙し、市長は行為者に対し、文書での警告、警察への通報、仮処分の申し立てなど、必要な措置を講じなければならないと定めています。 この条例にも罰則はありませんが、これらの措置にもかかわらず、不当要求行為等がやまないときは、市長は行為者の氏名または名称、不当要求行為等の内容その他必要な事項を公表できるとしている。これにより迷惑行為を踏みとどまる人もいるのではないかと思います。 ただし、現在の情報社会において氏名の公表は影響が大きいため、導入する場合には慎重な制度設計が必要となります」 罰則付きの条例としては、すでに東京都を含め各地にお手本があるという。 「東京都の『公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例』が挙げられます。これによるとつきまとい行為、著しく粗野または乱暴な言動等によって不安を覚えさせるような行為については、『一年以下の懲役又は100万円以下の罰金』という重い罰則が設けられています。 カスハラ防止条例については、どこまでが正当なクレームで、どこからがカスハラになるのか、線引きが難しいというのが大前提ですが、条例であってもこれくらいの罰則になりうるという例にはなるでしょう」 条例が抑止力として働くかは未知数だ。しかし、悪質クレーマーは撃退すべし、という意思の表れであることは間違いない。ぜひ、成立を期待したいところだ。 取材・文/植村祐介 イラスト/服部元信 写真/共同通信社