ついに東京都がマジ対策に乗り出した!! 「カスハラ防止条例」は悪質クレーマーを撃退できるのか!?
山あいにある人気の温泉地で旅館を経営するDさんは、不当な苦情がひっきりなしだと頭を抱える。 「昨年末、家族連れで泊まったお客さまから『なぜ夕食に伊勢エビがないんだ。正月には伊勢エビが欠かせないだろ。高いカネ払って、こんな非常識な宿に泊まるんじゃなかったよ』と言うんです。 しかし、当旅館は海鮮料理が名物の海沿いの宿じゃないし、ホームページにも伊勢エビの写真なんて掲載していません。なんでそこまで言われなくてはならないのか......」 地方自治体で働く職員に対する迷惑行為も、その悪質さを増している。 自治体職員や公共サービスの従事者を中心に構成する労働組合、自治労(全日本自治団体労働組合)がまとめた「職場における迷惑行為、悪質クレームに関する調査」(2020年実施)という資料がある。 そこには職員たちが日々直面する、キツいカスハラの事例が山のように記されていた。 「『税金で生活しているんだから、おまえたち公務員は(市民の)奴隷だ』とののしられる」(税務課職員) 「高齢者虐待が疑われるケースで虐待措置(高齢者を家族から引き離して養護老人ホームなどで保護すること)をしたら逆恨みされ『おまえを殺す』『家族を突き止めて殺す』といった電話が何度も入った」(福祉課職員) 「路線バスで運賃を払わない乗客をとがめたら激高し、ほかの客にも怒り出して遅延してしまった」(バスの運転手) 「地下鉄の駅でトイレの場所を聞かれて、利用客から『遠い』と暴力を受けた」(駅員) こういった暴言・暴力への対応について、自治労の担当者は「役所、公務員ならではの難しさがある」と話す。 「民間の企業には原則として『契約自由の原則』(当事者が自由な意思に基づいて契約を結ぶこと)が適用されるので、悪質な客にはサービスを提供しない選択肢があります。 店に押しかけてくる客がいるなら警察の助けを借りて追い返したり、不退去罪に訴えたりすることもできる。しかし、役所は市民に公的なサービスを提供する立場ですし、また福祉事務所や児童相談所は法律に基づいて訪問する義務があります。 その住民の扱いに困るからという理由でサービスを提供しないというわけにはいきません。迷惑行為抑止のための『録画・録音』を導入した自治体もありますがプライバシー権の侵害、個人情報保護といった観点から整理すべき課題も多く、すべての自治体がすぐに導入できるというものではありません」(自治労総合労働局) このような迷惑行為でダメージを受けるのは従業員側だけではない。長時間の居座りがあれば、担当するスタッフがほかの利用客に向けるべき時間がそがれてしまう。そうした対応にとられるコストが料金に転嫁されるといったことも考えられるだろう。 ただ、それ以上に大きな問題が、疲弊した従業員の休職や離職だ。 先に挙げた連合の調査でも、カスハラを直近3年間で受けたことのある人のうち、38.2%が「出勤が憂鬱になった」、さらに10.5%が「仕事を辞めた・変えた」と答えている。 つまりカスハラを放置していると、若手はもちろん、経験を積んだベテランですら心を病んだり、仕事を辞めてしまう可能性があるのだ。人手不足が課題になっている企業や役所にとっては、なんとしても避けたい事態である。