じつに「1万人にひとり」のレアケース…「臓器の位置が左右逆」の内臓逆位は、ほんの小さな窪みへの羊水の流れがカギだった
種の起源や進化、繁殖、生物多様性などについて研究を行う「進化生物学」。気の遠くなるような長大な時間の経過のなかで、今日の多様な生物世界にいたるまでのさまざまな変化を読み解く、興味深い学問です。 【画像】からだの器官や組織で最も古いものとは…あなたの眼は、まさに「脊椎動物史」 そうした「進化生物学」の醍醐味を描いた一連のエッセイ的な作品をご紹介していきましょう。 今回は、内臓が通常の向きと逆の「内蔵逆位」について、取り上げます。生物の左右はどのようにして決まるのか、その秘密が解き明かされていく研究の歩みをたどっていきます。 *本記事は、ブルーバックス『進化のからくり 現代のダーウィンたちの物語』を再構成・再編集してお届けします。
貴公子と皇帝
貴公子と皇帝の共通点は、人々に憧れと怖れを同時に抱かせる存在であることだ。そしてもうひとつ。この世の人々が本物の彼らを直接目にする機会はほとんどない。 ラテン・ミュージックの貴公子、エンリケ・イグレシアス。整った容姿と、グラミー賞に輝いた艶やかな歌声。その華麗なパフォーマンスは、世の女性たちの魂を無慈悲に奪い取るーーこれは男性には恐怖だ。そしてラテンポップの帝王と呼ばれた偉大なミュージシャンを父に持つ、無敵の系譜。確かにこれは、真の貴公子の数少ない実例と言えるだろう。 一方、今の現実の世界に、真の皇帝はいない。だがフィクションの世界にはごく稀に存在する。そんな架空の、しかし真の皇帝と呼ぶべき人物の一人は、『北斗の拳』に登場するサウザーであろう。 『北斗の拳』は、一九八〇年代、世紀末の世に爆発的な人気を博したコミックである。サウザーとは、修羅の世界の英雄にして主人公のケンシロウを、赤子の手をひねるように苦も無く叩きのめした、帝国の支配者にして最強の皇帝である。 一切の情を排した暴虐、究極まで研ぎ澄まされた冷酷非情。このサウザーの設定は、真の皇帝にふさわしく、ある種の憧憬を覚えずにはいられない。ちなみにサウザーは自らを、皇帝を超越した神に近い存在ーー聖なる皇帝ーー聖帝と称した。 さて、実在の貴公子エンリケ・イグレシアスと、架空の聖帝サウザー。実は彼らには、もうひとつ共通点がある。それは彼らの体のつくりにある。