【解説】日銀・長期金利1%超も容認…インフレ・景気どうなる?
日テレNEWS NNN
日本銀行は金融政策決定会合で金利を操作する政策を修正。長期金利について、1%超えも容認することを決めました。今後、インフレや景気はどうなるのでしょうか。植田総裁の会見から、経済部・宮島香澄解説委員が読み解きます。 ◇◇ ――5回目となった植田総裁のもとでの金融政策決定会合はたった今、記者会見が終わりました。会見のポイントはいかがでしたか? 「前回の会合よりもさらに円安が進んで、物価高の影響も広がる中で、日銀はどうするのかということで大変注目されました」 「今日のポイントがこちらです。全体の大規模な金融緩和に関しては今まで通りに維持しました。その上で長短金利操作の運用を柔軟化すると。具体的には、今まで声明文には長期金利の変動幅が0.5%って書いてありました。実際は形骸化はしていましたが、この部分をなくしまして、0.5%は削除しました。そして、上限の目処。この上限は日銀がオペレーション、金融操作をして1%までに、きっちり押さえますということだったんですけれども、今回は、1%という上限を『目処』にしました。1%を少し超えることも今後ありうるということが今回の大きな修正点です」 「それから消費者物価指数を上向きに修正しました。今年度は2.8%のプラスです。そして大きく変わったのは、24年度の物価見通しについて。前回は、24年度1.9%の見通しでしたが、2.8%にしました。ちょっと政策の変更の影響もありますけれども、物価の見通しは今までよりも上がっているということです。また、25年度の物価見通しについては1.7%にしました。意味としては2%に行ってない、日銀としては、まだ安定的に2%を超えるという目標にいっているとまでは見通してないという意味だと思います。しかし会見の中で、植田総裁は物価見通し目標の実現の確度は高まってきていると話しました。物価が上がるいくつかの要素があって、今の段階では円安などで海外からの輸入物価が高くなっていることが大きな要因ですが、ここから先、賃上げと物価の良い循環になると、それを目標にして、だんだん確度は高まっているということです」 「一方で賃上げの期待は、来年ある程度期待できると言いました。総裁としては春闘がポイントだということです。賃上げができて、マイナス金利の解除がいつかなという関心があり、来年の1月などの想定もあるのですが、総裁は春闘がポイントだと言いました。マイナス金利に関しては物価目標の達成の途中でもやめるかもとか市場では取り沙汰されているんですけれども、物価目標達成の見通しが立つまで継続すると言いました。それでこうした内容をうけた為替ですが、あんまり動かなかったんです」 ――記者会見の前と後でどうなるかなって見てるんですけれども。 「一部の報道で、今回再修正があるということで少し円高になったんですが、その後また円安に戻っていまして、そしてこの会見の前後ではあまり変化がなかったです。市場の人たちは今日の会見でこの先どうするかというところがあんまりきっちり読み込めなかったのではないかと思います。あまり一つの方向には出ませんでした」 「ただ、きっちり上限1%としていたのを、少し余裕を持たせるわけですから、方向としてはこれから少し市場に任せていくと、そういうメッセージを私は感じました」 ――改めてどうして金融政策をまた少修正したんでしょうか? 「一番大きいのは長期金利の状況なんです。こちらアメリカと日本の長期金利なんですけれども、前回の金融政策決定会合のときにはアメリカは4%ぐらいだったのが、もう5%を超える局面が出てるといます。日本もそれに引きずられるような形もあり、金利が上がってきまして、そしてきょうは0.9%を超えました。植田総裁は、この金利の上がり方は予想していなかったと。長期金利が1%まで上昇することは7月の段階では想定していなかったということです。当時1%について「念のための上限キャップという言い方をしていましたが、本当に1%に近づいたということです」 「このキャップだと大量に国債を買わなくちゃいけないなど、いろいろな副作用があるので、その副作用を抑えるための再修正で、アメリカの要因が大きいというふうに話しました。アメリカは財政が悪くなっている。それでたくさん国債を発行しなければなくならなくなって、それに対して買い手の方が少ないので金利がどんどん上がっているんです。明日もその国債の発行計画が新しく出るんですけれども、増発の方向性が考えられています。アメリカが、財政が苦しくてどんどん国債を出すとアメリカの金利がどんどん上がる。日本の金利も上がりながらも、やはり日米の金利差は、まだ大きい状態が続くと思います」 ――一定のこの金利上昇を認める狙いも気になるんですけれども。 「もともと長短金利操作は、マーケットの先手を打っていかないと、維持が難しい、市場の混乱を招きます。少し早め早めに動く必要があり、その意味合いもあると思います」 「日本は国債をすごく買っていて日銀が持っている国債は、6月末の時点で全体の53%。1%を超えないように必ず国債を買うとなると、相当国債を買い続けるということになりかねませんので、これも運用の柔軟化の背景です」 ――既に53%だと今後もかなり心配ですね。 「だから日銀の出口政策を考えなければいけません。植田総裁や日銀は物価高と、景気は両方に配慮しなければいけないんです。植田さんは就任当初どちらかというと、景気を強く気にしているように見えました。物価上昇につれて金利を上げたら、その後景気が下がってしまっては困ると、大変気にしていると思います。ただここにきて物価上昇が思ったよりも強いということで少し変わってきたかなと思います。一方で大規模な緩和は続けると明確に言っています」 ――金利上昇を容認しているのに、金融の大規模緩和策の維持は、ちょっとバランスが、少しわかりにくいんですが。 「岸田政権は、明日にも経済対策も出しますし、予算編成もあります。日銀はもちろん独立しているんですけれども、政府の経済政策と離れてしまっては、市場や経済状態バラバラになってしまう。そのためとは言わないですが、政府が経済対策を今考えられていることを配慮しながら運営しているということはあると思います」 ――今後はさらに中東の武力衝突が激しくなるなども考えられますが、経済への影響は? 「中東の武力衝突の影響は、アメリカと日本で影響の出方が違うんです。アメリカは今や資源国、エネルギーの生産国ですし、武器の輸出が増えるのはアメリカの経済にとってはプラスです。日本は原油の9割以上を中東から輸入していますし、中東での紛争は日本経済にとってはダメージになります。全体としてアメリカがよく日本がよくなる、経済状態がより離れて金利差が広がる可能性もあると思います」 「日銀の出口戦略としては、中東の紛争があったら、前より早く何とかしなきゃという危機感は高まっていると思います」 ――日銀が出口戦略をいつ打ち出してくるのか注目ですね。 「マイナス金利の解除は来年4月という予想が多かったんですが、1月と予想する人も増えてきました。植田さんはいわゆるタカ派ハト派ではなく、データが揃えば一気に行くのではないかと思います。日銀は12月にこれまで25年間の金融政策を分析・検証する「ワークショップ」を開催予定です。大規模な金融緩和の出口に向かう動きがいよいよ出てくるのか、注目されます」 以上、宮島解説委員とお伝えしました。