コメ不足で値上げ&店頭では購入制限も!’30年代には最悪なシナリオも…「米が自給できなくなる日」
「農水省が補助金の対象から小規模な農家を外すようにして、大規模な農家を対象にしてきましたが、大規模な農家が生産性を高めて経営規模をさらに拡大したかというと、思ったほど経営規模の大きな農家が出てきませんでした」 農水省は何十年も、こうした施策を続けており、平澤さんはその費用対効果に疑問を呈している。 『日本のコメ問題』(中公新書)で、著者の小川真如さんは「規模が大きい農家ほど補助金に頼り、コメ以外も多くつくっているのだ。逆に小規模な農家ほど、補助金に頼らずにコメ専門でつくっている」と指摘している。20㏊以上の農家は農業補助金の総所得に占める割合が平均して77%と高く、0.5㏊未満の農家の0.6%と比べて大きな差があるという。 ◆農地が足りないのに、田んぼは余っている? コメは日本が主要な食料で唯一、自給してきたが、今後はコメを自給できなくなるかもしれないという。食料安全保障の観点から、平澤さんは警鐘を鳴らす。日本は第二次世界大戦後の食料不足を、輸入とコメの増産で対応してきたと指摘し、大規模な食料輸入のリスクを回避するため、最低限の国内生産を維持する必要があるとみている。 実際問題、コメづくりの経営基盤弱体化は、日本の食料安全保障にとって喫緊の課題になっている。日本は米国からの穀物輸入に頼っていたが、米国は’70年代前半に大豆輸出を一時停止し、トウモロコシ輸出も制限する可能性を示唆した。このころから、食料安全保障という言葉が使われるようになった。 コメの需要は人口減少や食の多様化などで低迷し、田んぼがあっても、もうからず、耕作する人がいない。日本では、農地が足りないのに、田んぼは余っているという、奇妙な状況になっている。平澤さんは「お金が足りない」と話し、その解決策として、2つの方法があると解説する。 一つは、コメの価格を生産コストに見合うように引き上げること。しかしその場合、安い輸入品や麦などへの需要シフトが予想されるほか、平澤さんは「主食の値段を上げるのは国民福祉に逆行する」という。 そこで、もう一つの解決策が補助金を上手に使うこと。平澤さんは「農家の所得を直接支払いで補償する」政策を提唱し、消費者が食料安全保障のために補助金で農地を維持する応援をしてもらうのがいいと考えている。コメ農家への「直接支払い」が大切と強調する。 「いまの補助金を増やすのでなく、適地適作をしないといけない。そうしないと、さらに効率を悪くするだけです」 日本では、防衛費の大幅増強や、子育て支援の拡充などが大きな政策となっている。その陰で地味な存在だが、ひとたび異常気象や地域紛争で輸入品の入手が困難になれば、エネルギーなどと同様に、日本にとって食料確保は死活問題となる。コメは主成分の炭水化物のほか、たんぱく質、カルシウム、ミネラル、ビタミン、食物繊維などを含み、これほど栄養価に優れたものはない。せめてコメだけでも自給を続けられるように、知恵を絞ってもいいのではないか。 取材・文:浅井秀樹
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