【映画『かくしごと』杏さんインタビュー】杏さんが何度見返しても泣いてしまう、“罪深い一言”とは!?
千紗子の罪深い一言とはーー
観ながら千紗子の背中を押していた一方で、実は少年に対して千紗子が「あなたは私の子供なの」と言う瞬間は、思わずドキッとしてしまったんです。“うわ、言ってしまった……”と。 「しかもその後で、“お母さんって呼んで”と、千紗子は重ねるように言うんですよね。あのシーンは、すごい罪が深いなって思いました。与えるだけじゃなく、与えられたいと願ってしまった、と。少年にレスポンスを求めちゃった、すごい罪深いシーンだと感じ、あのセリフは私も演じながら言いづらさがありました。でも同時に、“お母さん”と呼んでもらえた時の震えるような感情がすごくあって。あそこは見返すたび、毎回すごく涙が出てしまうんです」 監督からは、台本のままではなく、自分の言葉でセリフを言って欲しいと言われたそうですね。 「ニュアンスが合っていれば細かな言葉は違ってもいいという程度のことですが、とにかく生の感情を出して欲しいとおっしゃっていました。だからあまり(リハーサルやテストを)重ねずに、とても自然体であることを重視して撮ってくださって。とにかくカメラ前での“生”の感情を大事にされていましたし、脚本も監督が書かれているので、疑問が出ても解決が速いというか、とても話しやすかったですね」
もう一つの“介護”というテーマ
父親の認知症という問題も、非常にリアリティがありました。千紗子と父親について感じたことを教えてください。 「父親像や2人の関係性については、あまり詳しく描かれていませんが、千紗子の父親は本当にかくしゃくとされて威厳があった方だったんでしょうね。厳格な父親に抑圧されてた、という側面もあったと思います。そんな千紗子が、どんどん子供に戻っていく父親と対峙しなければならなくなる。自分が知っている父親像がどんどん崩れていく悲しさや戸惑いもあったでしょうが、誰しもが直面するかもしれない問題であり、今後さらに社会的に大きな問題になっていくんだろうなと思います」 また父親役の奥田瑛二さんが、リアルで素晴らしかったです。何度も“うわぁ……”と思わされて……。 「今回の現場で奥田さんは、お父さんとしてのキャラクターを抜かず、ずっと“あの父親のまま”でいらっしゃいました。その没入の仕方は、凄かったですね。パパッと切替えにくいキャラクターだったでしょうし、でもだからこそ私も新鮮な印象のまま現場にずっと居られました。それぞれの方にアプローチの仕方があって、それぞれみんながそれをとても大事にしている作品でしたね」 父親が千紗子に、“お母さん、お母さん”と言うシーンも印象的です。 「千紗子にとっては、初めてお父さんの感情が見えたというか、初めてちゃんと言葉らしい言葉を交わした瞬間だったと思います。実際は違うかもしれないけれど、千紗子はずっと父親にねぎらわれず、優しい言葉を掛けてもらえなかったと認識していましたから。断絶の期間があって、お父さんが認知症になって初めて、千紗子は父親の気持ちを感じることができたのかな、とか色々考えて。すごく残酷なようにも思えますが、人生ってこういうことの繰り返しなんだろうな、と」 「きっとこれから私も、子どもたちから“あの時、何もしてくれなかった!”とか思われたり言われたりするかもしれないな、と思って。こっちからすると、色々してたのにな、みたいな(笑)。親になって初めて、そういうことも知りました」