散逸が懸念される女性史関係資料、保存・公開の動き相次ぐ 高良留美子と加納実紀代の資料室オープン
▽訪れる人が交差し広がっていく場に 女性史、ジェンダー史研究者の加納実紀代(1940~2019)は、5歳のとき広島で原爆に遭った。屋内での被爆だったため命拾いしたが、直前まで一緒に遊んでいた男の子は大やけどをして死んだ。その被爆地点である広島市東区二葉の里に近い山の中腹に今年3月、「加納実紀代資料室 サゴリ」が開室した。 「サゴリ」は、韓国語で「交差点」を意味する。訪れた人が加納の思考・研究に触れることで交差し、それぞれに広がっていく場として開設したと言うのは、主宰者の高雄きくえさん。1985年に広島に「家族社」を設立し、その後「ひろしま女性学研究所」と改称。講座を開いたり、ミニコミ紙を発行してきた。資料室の資金は家族社の代表だった中村隆子基金を充てている。 森の中の資料室に足を踏み入れてまず目に入るのは、加納の仕事として誰もが挙げる『銃後史ノート』18冊。「女たちの現在(いま)を問う会」で聞き書きと資料調査を積みあげて、もっぱら戦争の被害者として語られてきた銃後の女たちが、国防婦人会などの活動を通じて侵略戦争に加担してきたことを立証。女の戦争責任を問い、女性史研究に一石を投じた。
その後も、日本の植民地だったソウルの陸軍官舎で生まれた生い立ちと、被爆者であるというアンビバレンスから、加害と被害の二重性を引き受けつつヒロシマを問い続けた。 「加納実紀代の仕事」コーナーには、全仕事が一望できる本や雑誌が並んでいる。『まだ「フェミニズム」がなかったころ―1970年代、女を生きる』、『越えられなかった海峡―女性飛行士・朴敬元の生涯』、『天皇制とジェンダー』、『ヒロシマとフクシマのあいだ』、『<銃後史>をあるく』などの単著のほか、共著や編著も多い。 奥の本棚には、本と雑誌が約8000冊、A4ファイル資料約1000点が整理されている。雑誌で珍しいのは、戦時中のプロパガンダ雑誌『写真週報』183冊。ファイルにはテーマ別の資料がぎっしり。随所に付箋が挟んであり、書き込みがあり、ファイルのポケットのメモもそのままで、急ぎ足の彼女の息づかいが聞こえてきそうだ。 ひろしま女性学研究所文庫の部屋もあり、1970年前後の広島の女性運動、市民運動を記録するチラシ、ビラ、機関紙、新聞コピーなどを見ることができる。
資料室という堅苦しいイメージではなく、ゆったりと時間が流れる空間が心地よい。フリースペースでは40人までの会議も可能、今後は書評会なども開いて、訪ねて来る人とともに「場所」を作っていきたいそうだ。 資料室の開室は、金・土・日・月曜日の13時から19時、ホームページから予約制。