散逸が懸念される女性史関係資料、保存・公開の動き相次ぐ 高良留美子と加納実紀代の資料室オープン
詩を中心に、評論、社会批評、小説、女性史研究など多分野にわたる仕事をした高良留美子(こうら・るみこ)が88歳で亡くなったのは2021年12月12日。翌22年9月、高良が17年間暮らした東京・目黒区の居宅に「高良留美子資料室」がオープンした。 開設者は長女で版画家の竹内美穂子さん。のこされた資料の中には神奈川近代文学館への寄贈が決まっているものもあるが、公開までには時間がかかるので、24年末までに限定して、ここで公開することにした。 「この資料室は、生前の留美子をしのんでくださる場所として、高良留美子について知りたい方、未来の研究者のための場所として、あるいは何かご縁のあることで集まる場所として、学生の方々を含めた皆さまに、お使いいただければ」というのが竹内さんの思いだ。 高良は20歳で総合文化誌『希望(エスポワール)』に参加して以降、2021年に縄文と月の文化を論じた大著『見出された縄文の母系制と月の文化』を出版するまでの膨大な作品群がある。寄贈予定の第一次資料は段ボール箱五つ分あり、詩や小説の生原稿、推敲(すいこう)ノート、未発表の詩の草稿、高良自身が朗読した詩の音源、写真、詩人・茨木のり子や石垣りんの手紙もある。高良に興味がある人にとっては、ワクワクするような宝の山だ。
1950年代から始まる78冊のスクラップブックには、主著以外の詩や文章、それらに対する批評や周辺記事が貼り付けてある。1冊を手にとってめくれば、独自の女性論や文明論を展開した高良の思想世界に誘いこまれる。 本人の著書はもちろん、フェミニズム文芸批評家として関わった書籍、個人で創設し1996年から20回続けた「女性文化賞」受賞者の著書、森田療法の精神科医だった父・高良武久、作家で文芸評論家の夫・竹内泰宏の著書もある。高良が編さんした曽祖母・田島民の『宮中養蚕日記』、母・とみの『高良とみの生と著作』全8巻、画家で平和運動家の姉・高良真木の『戦争期少女日記―自由学園・自由画教育・中島飛行機』、拒食症のため自死した妹・美世子の遺稿『誕生を待つ生命―母と娘の愛と相克』の資料も見ることができる。 資料室では月に1度、オープンデーを設け、高良作品を「読む会」が開かれる。担当スタッフは小園弥生さん。並木道に面した明るいリビングルームでお茶を飲みながら高良の詩や評論を声に出して読み、感想を言う人もあれば、聴いているだけの人もいる。資料の閲覧も「読む会」への参加も、ホームページから予約が必要。