「時給115万円」の大谷翔平の3倍以上稼ぐクリスティアーノ・ロナウド、一晩で4000万円稼ぐ世界的DJ…インフレが止まらない「アイコン」の経済学
ロナウドは世界最高の「インフルエンサー」
毎年、最も活躍したサッカー選手に贈られる「バロンドール」を通算5度受賞しているロナウドは、メッシと並んで21世紀最高のサッカー選手だが、アル・ナスルとの契約時点で37歳。 キャリアのピークはとっくに過ぎたベテラン選手に、なぜアル・ナスルが年間2億ドルもの大金を費やしたかというと、ロナウドは文字通り世界中でその名と顔を知られた超有名人であり、その国際的な広告価値は計り知れないからだ。 ロナウドは世界で何十億人もの人々に認知されているグローバルな「アイコン」であり、所属チームはもちろん、彼が身につけるものや出演する企業広告、日々の言動、その全てに巨大な価値が生まれる。 ロナウドのインスタグラムはフォロワー数約6億2000万人(2024年3月現在)で、個人のアカウントとしては世界で最多。ロナウドは世界最高の「インフルエンサー」なのだ。 さて、野球界のスーパースター大谷はと言うと、インスタグラムのフォロワー数は約790万人。野球選手としては断トツだが、それでもロナウドの80分の1程度にすぎない。サッカーが真のグローバルスポーツであるのに対して、野球人気はかなりローカルであることが改めて理解できる。 それでも、少なくとも日本において大谷は唯一無二の「アイコン」である。ドジャースにとって大谷と契約することは、日本中の注目を集めるアイコンに「LA」のロゴマークを刻印し、日本中の野球ファン(あるいはそうでない人も)をドジャースファンに仕立て上げるようなものだ。 経済的に衰退しているとはいえ、人口1億を超える国で、毎日のように「ドジャーブルー」のユニフォームがテレビに映り、国民の多くを「ドジャー・ネイション」の一員にできるのならば、「総額1015億円」も決して高い買い物ではないのかもしれない。
一晩で4000万円を稼ぐDJ
今日の世界において、国際的なトップアスリートと同じようなポジションにあると思われる職業のひとつが「DJ」である。21世紀に入り、世界で最も売れているDJたちは軽く年収数十億円を稼いでいる。 『フォーブス』は毎年「世界で最も稼ぐスポーツ選手ランキング」を発表しているが、同誌は「世界で最も稼ぐDJランキング」も発表している。 まだコロナ禍前でライブイベントが制限されていなかった2019年のランキングを見ると、1位はニューヨークを拠点に活動するザ・チェインスモーカーズで推定収入は4600万ドル(当時のレートで約50億円)。 2位はいつも白い筒状のマスクで顔を隠している覆面DJ、マシュメロの4000万ドル、3位はスコットランド出身のDJ兼音楽プロデューサーのカルヴィン・ハリスで3800万ドルだった。 彼らの主な収入源は、世界各地でのフェス出演やナイトクラブでのライブパフォーマンスによって得るギャラだ。たとえば同ランキング3位のハリスがラスベガスの大型クラブで一晩DJをするときのギャラは4000万円(!)とも言われる。 「時給115万円」の大谷もビックリの金額だ。 なぜハリスがこれほどの高額ギャラを得られるかというと、それは彼がDJである前に天才的な音楽プロデューサーであり、いわば「現代音楽の申し子」としてアイコン化しているからだ。 ハリスは2010年代に最も売れた「DJ」のひとりだが、もともとは2007年に「シンガー・ソングライター」としてデビューしたミュージシャンである。 彼が有名になったキッカケは音楽系SNSの「My Space」に自身が作ったオリジナル楽曲をアップロードし、その楽曲がインターネット上で好評を得たことだった。 その類いまれなるトラックメイキング能力を買われて、やがてリアーナやNe-Yoといった多くの有名アーティストとコラボするようになったのだ。プライベートでも歌手のテイラー・スウィフトとの交際が報じられるなど、完全に「セレブ」としてのステイタスを確立している。 ハリスに限らず今日、『フォーブス』のランキングに登場するような超人気DJたちは、ほぼ例外なく売れっ子の音楽プロデューサーである。彼らはYouTubeで何億回、何十億回と再生されるような世界的ヒット曲を生み出すことによって時代の寵児となったのだ。 今や現代の音楽シーンを代表するグローバルアイコンであるハリスは、コカ・カーラやペプシなど多くのグローバル企業のキャンペーンに起用されている。過去にはデヴィッド・ベッカムやロナウドらサッカー界のスター選手のものだったエンポリオ・アルマーニの下着ラインの広告塔も担った。 トップDJとトップアスリートの立ち位置がいかに近いか、おわかりいただけるだろう。 ハリスのほかにも、たとえば素顔を出さずに覆面DJとして活動しているマシュメロなど「アイコン」そのものである。マシュメロは「世界で最も稼ぐDJランキング」でハリスを超える2位だが、彼の白い覆面に描かれた愛くるしくも謎めいた「顔」はそのままTシャツやキーホルダーなどグッズのロゴになっている。 マシュメロは覆面をかぶることによって、自らをわかりやすく「アイコン」化してプロデュースしているのだ。 写真/shutterstock
---------- 内野宗治(うちの むねはる) 1986年生まれ、東京都出身。国際基督教大学教養学部を卒業後、コンサルティング会社勤務を経て、フリーランスライターとして活動。「日刊SPA!」『月刊スラッガー』「MLB.JP(メジャーリーグ公式サイト日本語版)」など各種媒体に、MLBの取材記事などを寄稿。その後、「スポーティングニュース」日本語版の副編集長、時事通信社マレーシア支局の経済記者などを経て、現在はニールセン・スポーツ・ジャパンにてスポーツ・スポンサーシップの調査や効果測定に携わる ----------
内野宗治
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