【シンガポール】広島6社が東南アジア狙う ユニコーン創出へ県が後押し
広島県の企業6社が東南アジアへの参入機会を狙っている。10年間で県内からユニコーン(企業価値が高い新興企業)に匹敵する企業10社を創出することを目指す県のプロジェクト「ひろしまユニコーン10」の一環としてこのほどシンガポールを訪れ、現地の企業関係者を前に事業案を説明してアピールした。ユニコーンのような企業となるには市場の拡大が必要で、高い経済成長を続ける東南アジアに期待を寄せている。【和田純一】 ひろしまユニコーン10は2022年3月に発足したプロジェクトで、創業年数、分野、上場・未上場を問わず、ユニコーンと呼ばれる時価総額10億米ドル(約1,420億円)以上の企業への成長を目指す企業を対象としている。企業内の新規事業立ち上げも含まれる。 同プロジェクトの一環で、東南アジアでの事業展開を志向するスタートアップや中小企業を支援するため、「アジア・コ―クリエーション・プログラム(ASIA CO-CREATION PROGRAM)」が実施され、介護、医療、農業、バイオ分野など幅広い業種の6社が採択。これら企業が9~13日にシンガポールを訪れた。 滞在の最終日となる13日には、シンガポールのフィンテック(ITを活用した金融サービス)企業のアスパイア(Aspire)やベンチャーキャピタル(VC)などの代表者4人を前にピッチ(短時間での自社のサービスや製品の紹介)を行った。 広島大学発のスタートアップでゲノム編集ツール技術を手がけるプラチナバイオ(東広島市)は、卵アレルギーの人でも食べることのできる「アレルギー低減卵」の開発プロジェクトを説明した。 松木崇晃ディレクター(アジア地域担当)は、ゲノム編集を利用したアレルギー低減卵は日本で臨床試験を重ねている段階だが、「シンガポールは培養肉の商用生産を世界で初めて認可した国のため、ゲノム編集技術を活用した食品の展開にも期待が持てる」と語った。 一般に経済水準が高まるほどアレルギーの問題が顕在化しやすく、「シンガポールでも上の世代に比べて若い世代で、アレルギー患者が増えているとの意見をシンガポール人の出席者から聞くことができた」とも述べ、将来的な市場創出に期待を示した。 発酵技術を活用した微生物増殖剤(NSP)などを強みとする野村乳業(広島県安芸郡)は自社製品の特長をアピール。現地では原料供給先パートナーの発掘のため、期間中に商談を行った。 統計学ベースの占いを活用して人の個性をデジタル化し、マッチング成功率を可視化するサービスを提供するネーティブ・ドット(native.)は、友達との相性診断、嗜好(しこう)性を診断するコンテンツを東南アジアで検証した結果を共有した。 アジア・コークリエーション・プログラムを担当する広島県商工労働局イノベーション推進チームのスタートアップ企業創出担当の江口史展主査は、「ひろしまユニコーン10の立ち上げ後、国内での取り組みが多かったが、今回は初の海外プログラムになる」と述べ、現地視察を通じたネットワークを生かして海外進出のきっかけを提供したいと狙いを語った。また、広島県は、広島大学や経済産業省が支援するカーボンリサイクル実証研究拠点があるなどライフサイエンス(生命科学)に強み持っていることから、同産業も今後のアジア進出が期待できる分野の一つだと付け加えた。 アジア・コークリエーション・プログラムは、東南アジアでの日系企業の新規事業を加速させることを目的とした会員制コミュニティー「JSIP」、広島銀行(広島市中区)が広島県からプログラム運営を受託した。 海外視察のほか、日本国内でのメンターを通じた事業計画支援などを提供している。今後もサポートは継続され、25年3月には日本国内でプログラム全体の成果発表会の開催を予定する。 JSIPは、日本人の有志が中心となり21年に設立されたコミュニティー。東南アジアでの新規事業展開に携わる日系大手企業を中心に30社以上が会員となっている。 これまでに大企業がスタートアップに協業案を提案する「リバースピッチ」形式などの機会を通じて概念実証に進む事例を生むなど、事業の立ち上がりと拡大のスピードの加速を後押ししている。