ソルガム由来のバイオエタノールで脱炭素発電…日産栃木工場でSOFC稼働開始、その特徴は?
(写真:レスポンス)
脱炭素の動きは製品単体のCO2排出量だけでなくエネルギーや原料の調達から消費の末端(廃棄)までを含んだものになってきている。製造業は工場で使用する電力もカーボンニュートラルを目指す必要がある。そのためには、グリーン電力の調達以外にゼロカーボンでのコジェネレーションの活用も注目されている。 日産自動車は、2016年にバイオエタノールによる個体酸化物燃料電池(SOFC)の『eNV200』を走らせることに成功している。3月6日に栃木工場で公開されたSOFC定置型発電設備は、この技術を発展応用したもので、特徴はソルガム由来のバイオエタノールを燃料に利用することだ。 ◆SOFCの課題と可能性 トヨタ『MIRAI(ミライ)』やホンダ『CR-V e:FCEV』などのFCEVに利用されている燃料電池(FC)スタックは、触媒によってイオン化された水素と酸素を使って水を生成する過程で電力を得る。SOFCのスタックも水素と酸素を使って電力を得る点では同じだが、FCは負極の水素イオンが電解質を透過するときに電子を発して、正極の酸素と結びついて水をつくる。SOFCは正極の酸素イオンが電解質を通り抜けて負極の水素と結びついた水をつくる。水は負極側に発生する。 FCスタックは電力の取り出しに熱は必要ないが、プラチナなどのレアメタル(ホンダは金属触媒を採用している)が必要となる。FCは水素そのものを燃料とするので、高圧のタンクが必要になる。保存や貯蔵効率の問題もある。SOFCは液体のバイオエタノールなどから高温(800度)で改質を行い水素を取り出す。熱を利用するので発電効率が高い。触媒にレアメタルはほぼ必要ない。 SOFCの課題は、高熱を利用することでのスタックの耐久性だ。従来はセルの支持にセラミックを使っていたが、日産ではセラミックをメタル素材に置き換える研究を行っている。燃料から水素をとりだすために高温が必要なため、起動に時間がかかるという問題もあるが、メタルサポートは起動の応答性の向上にもつながる。あとは他の代替燃料と同様に発電単価の問題もある。将来的に買電コストがあがった場合、ソルガムによるSOFCの単価は他のバイオ発電より安くなると日産は見込んでいる。 SOFCとFCにはそれぞれ、一長一短がある。車載ではなく定置型の発電機、コジェネレーターとしての用途なら、燃料の調達、サプライチェーンをどうするかの問題のほうが大きくなる。日産では2050年カーボンニュートラル達成には、代替燃料による発電も不可欠としている。事業全体に必要な電力のうち、ガスによる発電をゼロにし、再エネ40%、グリッドからのグリーン電力30%、代替燃料発電30%という構成比を目指している。代替燃料による発電(コジェネレーション)に、SOFCを採用する。 2050年には再エネ、代替燃料でカーボンオフセットゼロを目指す ◆食糧供給に干渉しない燃料用のソルガム 日産が採用するSOFCの燃料はソルガムという稲科の植物から生成したバイオエタノールだ。バイネックスというベンチャーが東京大学とともに品種改良したソルガムを開発した。同社はオーストラリアで燃料用のソルガムの栽培を始めている。バイオエタノールの原料にはサトウキビやとうもろこしなどが存在するが、食糧として利用されているものは、燃料利用との相性が悪い。食糧価格や供給に干渉し、南米では森林の伐採が問題になっている。ロシアのウクライナ侵攻以来、世界の食糧供給が不安定になっている。
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レスポンス 中尾真二