イギリスの石炭時代が終焉。増える環境デモでの逮捕者。なぜ矛盾は生まれる?
ロンドンに住むイラストレータークラーク志織さんの連載「イギリスのSDGs事情ってどうなのさ?」。イギリスの人たちがSDGsの理念を日々の暮らしにどう取り入れているのかを、パンチの効いた軽妙なタッチのイラストつきでレポート! 笑いと学びのつまったコミックエッセイです。 【イラスト】気候危機は天災?人間活動も要因になっているならなんとかしないと… 今回取り上げるのは、一年の締めくくりに相応しいうれしいニュース! なんとイギリスが石炭火力発電を廃止したのです。ついに願った未来の到来と思いきや、手放しで喜べないという......。その理由とは?
石炭火力発電の廃止、環境デモ参加者の逮捕増加
欧州連合の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」によると、2024年の世界平均気温は、過去最高になる見通しなのだそう。 私はこの夏、日本に滞在していたのですが、ほんっとうに暑かった。熱波や洪水、巨大台風、山火事などの被害が世界各地で相次ぎ、気候危機に関する暗くて怖いニュースばかりが目につく。そんな1年だった気がします。 ですがそんな状況下でも、キラッと輝くポジティブなニュースもありました。 今年9月にイギリスが142年もの歴史をもつ石炭火力発電を終了させたのです! 石炭に大きく支えられ産業革命を起こした国でのこの変化。石炭時代の終焉、そして一時代の終わりを感じました。 イギリスは、2010年には全体のわずか7%だった再生可能エネルギーによる発電量を、2024年前半には50%以上に増加させ、今後も風力発電などの再生可能エネルギーの使用割合をさらに進めていく方針だといいます。(※1)エネルギー担当の政府高官、マイケル・シャンクス氏は「エネルギーシステムから石炭を段階的に廃止した初の主要国となり誇りに思う」と述べたそう。(※2) うん、自分の暮らす国でのこの前向きな変化、私もとてもうれしいぞ! けれど同時に、「わーい!イギリス最高!よっ!環境対策のリーダー!」と100%の気持ちで喜べない私もいるのです。 というのも、先日、イギリスは環境・気候デモの参加者の逮捕者が世界平均より3倍も高いという報道(※3)を見かけ、なんだかどんよりした気持ちに。 なぜならイギリスが石炭火力発電を終了させるに至った理由は、石炭のコストが上昇し採算が取れなくなったなどさまざまな要因があるけれど、数々の環境系アクティビストたちがラディカルすぎると非難されながらも「石炭火力の停止」を訴える抗議デモを何年も前から行ってきたことも、ひとつの理由だと思うからです。 例えば、まだイギリスの電力の3分の1を石炭で賄っていた2007年、環境保護団体グリンピースの6人のアクティビストが、ケント州にある220mの石炭火力発電所に登るという抗議デモを行ったそう。(※4)当時の世間の反応は「石炭火力を終わらせるなんて非現実的」といった批判的なものでした。しかしその後もグリーンピースは、手法を変え「石炭火力の停止」を訴え続けました。 また、私自身、2019年に環境保護団体のエクスティンクション・レベリオンが、「やりすぎ」「迷惑」などと非難されながらも、ロンドン中心部を数日間にわたり封鎖し、地球温暖化の危機を訴えてくれたおかげで、気候危機の問題の緊急性を知り、この問題をより自分ごととして考えられるようになりました。 環境アクティビストたちの大胆なアクティビズム(もちろん非暴力)は、ニュースやSNSで時に批判的に取り上げられ、非難されながらも、確実に世論の気候危機に対する関心を高めていったとも言われています。 ※1 出典:https://www.bbc.com/japanese/articles/cd7x252d2z9o ※2 出典:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241002/k10014598011000.html ※3 出典:https://www.theguardian.com/environment/2024/dec/11/britain-leads-the-world-in-cracking-down-on-climate-activism-study-finds ※4 出典:https://www.greenpeace.org.uk/news/the-era-of-uk-coal-is-over-heres-how-it-happened-and-what-comes-next/