森友・加計問題 安倍首相の答弁を振り返る 坂東太郎のよく分かる時事用語
昨年2月の発覚以来、1年以上にわたって国会を揺るがしてきた森友問題と、そして加計学園問題。森友学園の決裁文書改ざん問題では5月末から6月にかけて、大きな動きがありました。5月31日に当時の理財局長だった佐川宣寿前国税庁長官の不起訴が決まり、6月4日には財務省が文書改ざんの内部調査結果を報告しました。報告書では、官邸などへの「忖度の有無」には触れなかったものの、安倍晋三首相の答弁の後から、政治家らとの交渉記録の扱いの検討が始まった様子が記されています。 加計学園問題でも動きがありました。愛媛県今治市に新設計画が持ち上がった獣医学部をめぐって、愛媛県の文書には、2015年2月25日に首相が加計孝太郎理事長と面会したとの記録が残っていることが判明しましたが、学園側からこの面会を否定するコメントが出されました。 ここで、森友・加計学園問題をめぐる主要なテーマやカギになる安倍首相の答弁などの変遷についてまとめてみました。キーワードは「2017年2月17日」と「2017年1月20日」です。
●森友学園問題の「2017年2月17日」
財務省の調査報告書で記された安倍首相の答弁は、2017年2月17日の衆院予算委員会で飛び出しました。「一部だけ切り取るな」という批判を避けるため衆議院の議事録から発言の大まかな流れを見ておきます。(肩書はすべて2017年2月当時) 質問したのは民進党の福島伸享(のぶゆき)衆院議員。福島氏の主眼は森友学園に対する「8億もの値引き」および「学校設置の認可」について。主に前者は財務省の佐川宣寿理財局長、後者は松野博一文部科学相と村田善則同省の高等教育局私学部長が答えていました。 納得できない福島氏は「ホームページのトップに」「出てくる」内容として「あえて言いますけれども」と前置きして、「小学校の名誉校長とされているのが安倍昭恵先生」「安倍晋三内閣総理大臣夫人と書いて」あるという「事実」を「総理は御存じでしょうか」と水を向けました。首相は「うちの妻が名誉校長になっている」のは「承知をしております」と答弁しました。 やり取りはここで終わるかと思いきや、首相から「私や妻がこの認可あるいは国有地払い下げに、もちろん事務所も含めて、一切かかわっていない」「もしかかわっていたのであれば、これはもう私は総理大臣をやめるということであります」と、聞かれてもいない「決意」が飛び出したのです。むしろ福島氏の方が驚いて、「私は、総理がかかわっていると言っているわけじゃありません」と打ち消すほど。 次に福島氏は「『<記念小学校>設立に向けて』という籠池(泰典)理事長のお手紙」を紹介しました。寄付をお願いする内容で、「御寄附を賜りました方には、安倍晋三記念小学校の寄附者銘板にお名前を刻印し、顕彰させていただきます」という一文も入っていました。読んだ後に福島氏は、「総理が悪いと言っているんじゃないんですよ、利用されているだけじゃないかと思うんですけれども」とフォローしつつ、「こうした名目でお金を集めているということ」を首相は知っていたのかと尋ねました。首相は「安倍晋三小学校にしたいという話」は「お断りをしている」「私の名前を冠にするというのはふさわしくない」と答弁。その後も「いずれにいたしましても」と切り出し、「私や妻が関係していたということになれば、まさに私は、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめるということははっきりと申し上げておきたい。全く関係ない」と重ねて発言しました。 この「関係」とは何なのか。今年5月28日に開かれた衆院予算委員会の集中審議での質疑に次のような部分がありました。増子(ましこ)輝彦委員(国民民主党)が昭恵首相夫人の「関係」をただしたのに対して、首相は「不正とは金品を授受して行政に『政策をこう変えろ』ということだ。これが今まで政治の世界で贈収賄として大きな問題になってきた。それは全くない。そういう文脈の中で私は『一切関わっていない』と申し上げている」と答弁。浜村進委員(公明党)の同様の質問にも「(夫人は)一切関わっていない。お金のやり取りがあって、頼まれて行政に働きかけたという意味での関わりはない」と答えました。 「贈収賄」というギョッとする言葉が出てきました。賄賂を受け取って行政を歪めれば不正であるというのは言うまでもないところ。「関係」という言葉の意味を限定して「それはない」と変針したようでもあります。他方で、賄賂罪が悪質な関与なのは間違いないから首相答弁がおかしいというほどでもないのです。 増子委員は例の「首相も国会議員もやめる」発言が改ざんや記録の廃棄に影響したのではないかとも質問。首相は「(答弁が改ざんや廃棄の)起点ということはない」と答えました。名誉校長に昭恵夫人が一時就任していたのは「そういう意味での関わりはあった」。こちらは昨年の答弁と矛盾しません。