森友・加計問題 安倍首相の答弁を振り返る 坂東太郎のよく分かる時事用語
また、森友学園への国有地売却について政府は一貫して「適正だった」と言ってきました。例えば2017年2月の衆院財政金融委員会で麻生太郎財務相は「国有財産については、いずれの場合においても適正な価格によって処分をする」とし、同省理財局長の答弁を肯定する形で「適正な手続によって処分を行っている」「私どもとしてはこれ以上のお答えのしようがない」としてきました。 ところが今年4月9日の参院決算委員会で財務省の太田充理財局長が、同局職員が昨年、森友学園側に撤去費用についてうその説明をするように求めていたと認めてしまいました。11日の衆院予算委員会で首相は「全ては、財務省と国交省から答弁」させる。「今私が適正か適切でないかということを行政府の長として決めつけるわけにはいかない」と後退させました。 もっとも財務省は首相発言を「贈収賄でなければ関係ない」と軽く考えてはいなかったもようです。6月4日に発表した決裁文書改ざん問題の調査報告書で「辞める」発言の後、理財局総務課長が昭恵夫人の名が入った交渉記録を確認した上で、廃棄(改ざん)したと認めました。首相発言と直接の因果関係があったとまでは書かれていませんが、関係なかったとも言い切れません。
●加計学園問題の「2017年1月20日」
獣医学部新設計画を知ったのは加計学園が内閣府から事業者と認定された「2017年1月20日」であると、昨年7月24日の衆院予算委員会の閉会中審査で首相が明言したことが波紋を広げました。というのも、安倍首相が政権に復帰した翌年の2013年、肝いりで国家戦略特別区域が制度化されて以来、15年6月には獣医学部が置かれる愛媛県と今治市が学部新設を申請しました。 同じ閉会中審査で、首相は「加計(孝太郎理事長)さんとは、政治家になるずっと前から、学生時代からの友人であります」「気の置けない友人関係でありますから、こちらがごちそうすることもあるし、先方もごちそうすることがある」「彼(加計氏)はチャレンジ精神を持った人物であり、時代のニーズに合わせて新しい学部や学科の新設に挑戦していきたいという趣旨のお話は聞いたことがございます」と答えているので、ふつう時折会う友人(首相)に理事長が、念願としている話(獣医学部新設)をしてもおかしくはありません。 ところが首相は「決定」した17年1月20日まで知らなかったと発言し、「彼(加計理事長)が私に対して、私の地位や立場を利用して何かをなし遂げようとしたことはただの一度もございません」「彼が私の地位や立場を利用して何かをなし遂げようとすることは一度もなかった」「今まで彼もさまざまな学部・学科をつくってきたわけでございますが、そういうことも含めて具体的に、何かを今つくろうとしている、ですから、今回でいえば、獣医学部をつくりたい、さらには今治市にといった話は一切ございませんでした」と明快に否定したのです。 愛媛県が作成した文書では、県と今治市の職員、及び加計学園幹部が2015年4月2日、まず藤原豊内閣府地方創生推進室次長と内閣府内で面会後、柳瀬唯夫首相秘書官と首相官邸で面会しています。柳瀬氏は「記憶の限りではない」と否定していましたが、業を煮やした愛媛県から面談記録や、名刺のコピーまで突きつけられるありさまです。 首相動静などで明らかな通り、首相秘書官は首相と毎日のように顔を合わせる腹心中の腹心。それが15年4月2日に加計側と会っていたのを17年1月20日まで首相に知らせなかったことなどあり得るでしょうか。そういえば、以前の首相は今治市の特区申請を「15年6月4日に知った」としていました。こちらの方がよほどタイミングが合います。 愛媛県からは、2015年2月に加計孝太郎理事長と安倍晋三首相が面会したという文書も現れました。首相が「そういう新しい獣医大学の考えはいいね」と発言したとも。今年5月26日に、学園側はこの面会を「実際にはなかった」と否定するコメントを発表しましたが、首相の「2017年1月20日」が揺らぐ情報の一つとなっています。
--------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など