建設用電線市場、需給状況「ほぼ正常化」。需要増などで再ひっ迫懸念も
建設用電線の需給が緩和している。市場の過熱感は昨年末から今年初旬がピーク。大手メーカーでは現状について「ほぼ正常化している」との見解が大勢を占める。需給ひっ迫で昨年には大手各社が新規受注を一時停止したが今年2~3月に相次ぎ再開。その後市場への供給がある程度進んだことなどで5~6月にひっ迫が鎮静化したとの見方が市中では多い。ただ都市再開発や工場建設などで目先の需要は堅調と見る企業が多い中、銅価乱高下で在庫を積み増しにくいこともあり「今後再ひっ迫する可能性はある」(大手企業幹部)との指摘も。 建築物の電気配線などに使う建設用電線は国内銅電線市場の約半分を占める主要品種。昨年は高圧品で夏ごろから需給ひっ迫に伴う新規受注の一時停止が通知され始め、年末にかけボリュームの大きい低圧品にその動きが拡大。コロナの影響で減った工事が動き出し需要が増えたことや、市場の混乱に伴う製品確保の動きが影響したなど見解はあるが大手企業幹部は「真の要因はつかみ切れていない」と話す。 足元は低圧品の一部サイズや高圧品でタイト感はあるとの見解が多いが「深刻だった12~1月は何だったのかと思うレベル」(大手メーカー筋)で需給は落ち着いている。新規受注再開後に顧客にある程度製品が行き渡ったことが需給緩和につながったとの見方が市中では多い。またメーカー筋からは電気工事業者向けの電設市場で「人手不足により建築物の工期が延伸し、納入時期が先送りになっている」との声が聞かれるほか、電材店向けの市販市場について「端境期で停滞感がある」とする企業も。 ただ目先については「再び需給が引き締まる可能性はある」(業界大手)との指摘も。例年夏から秋にかけ夏季休業中の工場・学校での電気工事や、年度内竣工に向けた建設工事などで需要が増え始める。加えて現在は都市再開発関連やデータセンター関連など基礎となる需要が底堅いほか、今後は半導体工場などの大型建設案件によるニーズも見込まれる。 さらに現在は在庫を積み増しにくい状況。銅価が高水準の中、在庫の拡大は必要となる運転資金の増加につながる。加えて銅価が急落局面に転じれば、高値の銅で製造した在庫を安値で売る状況となるため大手メーカー幹部は「収益に相当の打撃がある」と強調する。 在庫量適正化と安定供給の両立には需要状況に関する情報を製造・在庫の管理に生かすことが重要。電線メーカーではさまざまな取り組みを進めている。ある大手企業では「建築現場にも密に足を運び、需要予測の精度を高める」とコメント。また別の企業ではデジタル技術の活用などで営業の情報をモノづくりに生かす取り組みも。 市場の極端な過熱はメーカー・需要家双方にとって痛手。再ひっ迫を抑えるためには、生産のピークが立たないよう発注面での見直しも有効だ。大手メーカー役員は「量的な要請に応えるにも限界があり、発注を平準化いただければありがたい」と話す。さらにすでに契約済みの案件に関しては、メーカーとして前倒しで供給準備を進めるため「どの品種がどれぐらい必要か、明細を早めにいただければ」(業界大手幹部)とする企業が多い。