モーリタニアで「バッタのカップル」に嫉妬した研究者が、ふと気づいた「重大な疑問」
バッタに嫉妬することで生まれた疑問
お見合いパーティーに参加したのにカップルになれず、できたてホヤホヤのカップルたちを眺めながら一人で帰宅するのは惨めである。なぜ遠いアフリカにまで来て、あの情けなさを思い出さなければならないのか。 嫉妬から生まれた疑問は、私の中でじわじわと増幅していった。 これは一体全体どうなっているのだ。バッタの世界では、雌雄共にカップルを望む個体はあぶれないような社会システムが充実しているのだろうか。カップルたちが自分たちの幸せっぷりを見せつけている気がして、段々腹が立ってきた。悲しみを分かち合ってくれるあぶれた雌雄はどこにいるのだ。早く出てきて、大いに慰め合おうじゃないか。 あちこち探し回っても同志はいっこうに現れず、くたびれてしまった。明日になったら何かわかるかもしれないと、宿題を胸にしまい込み、寝床(砂の上に敷いたパイプベッド)に横たわる。 モーリタニアに渡った初年度は、あろうことか、大干ばつに見舞われ、バッタは消え去り、商売あがったりだった。それが次年度の後半戦で、ようやく大量のバッタとのご対面である。待ちに待ってたバッタたちよ! お前たちをどれだけ待ち焦がれていたことか。 「明日からこの大量のバッタたちを独り占めして、調査できたら色んなデータ取れまくりで、今までの遅れを一気に取り戻せるはずだ。あぁ、なんて私は幸せ者なのだろうか!」 あれもしよう、これもしよう、と夢を膨らませながら眠りについた。
失望の朝
新しい朝が来た。希望の朝だ。喜びに胸を開き、大空あおぐ。星はまだ輝いているが、空の色が黒から青に変わりかけた頃に、自然と眠りから覚めた。 サソリが侵入せぬよう、パイプベッドの上にあげておいた靴を履き、今日はかなりの距離を歩くであろう決意を込めて、しっかりと靴紐を締める。 昨夜、バッタの大群がいた辺りに、ウキウキと歩を進める。朝の薄暗いうちから大量のバッタにおはようと挨拶ができる幸せを噛みしめる。 朝一からバッタに出会えるなんて、どんなモーニングサービスよりも贅沢だなぁと、感慨にふけりながら歩くが、あれ? こっちにバッタおらんやんか。寝ぼけて違う方向に歩いてきたかしらと方向を変えて捜索するも、どこにも見当たらない。んん? んなわけあるかよと、不安に完全に目が覚め、軽く小走りになる。あちこち走り回るも、バッタいないやん! いなくなってるやん! 太陽は地平線からすっかり顔をのぞかせ、ライトをつけずとも辺り一面一望できる。ちらほらカップルはいるものの、昨夜、あれだけ大量にいたバッタたちが忽然と姿を消していた。 昨日、カップルになれずにあぶれたオスは、近くの大きな植物で一夜を過ごしていたのだろう、植物上や根元でひなたぼっこをしている。 一夜にして大量のバッタが消え去るとか、そんなことってある? いや、初めての体験だからこれが普通なのかどうか知らんけど。うなだれて見下ろした砂地には、バッタが歩いた跡が確かに刻まれている。5時間寝ている間に、一体何が起きたのだろうか。