モーリタニアで「バッタのカップル」に嫉妬した研究者が、ふと気づいた「重大な疑問」
「新書大賞2018」を受賞し、累計25万部(電子版を含む)を突破した『バッタを倒しにアフリカへ』の続編『バッタを倒すぜ アフリカで』(前野 ウルド 浩太郎著・4月17日発売・光文社新書)が刊行されました。前作では触れられなかった「世界初」の研究内容をふんだんに盛り込んだ、608ページに及ぶ大著です。本記事では本書の第1章より、世界初の発見につながった、モーリタニアでのフィールドワークの様子を紹介します。 【マンガ】19歳理系大学生が「フィールドワーク中」に死にかけた「ヤバすぎる体験」 ※本記事は前野 ウルド 浩太郎著『バッタを倒すぜ アフリカで』から抜粋・編集したものです。
違和感の正体
息を潜めながら、バッタたちに急接近する。日中だと、少しでも近づこうものならあっという間に飛び去ってしまうのに、夜だと、そっと近づけば逃げようとしない個体もいる。こちらに気づかないのか。 それにしてもすさまじい数のカップルが成立している。しばらく観察を続けているとバッタたちがうらやましくなってきた。 「いいなぁ、バッタはカップルになれて。こちとら血気盛んな男女が集うお見合いパーティーに参加してもそんな簡単にカップルになんかなれないというのに……」 雌雄が存在する生物、すなわち有性生殖を営む生物は、雌雄が交わることで次世代を生み出す。バッタにも雌雄が存在し、両性が巡り合い、お互いを受け入れ、結ばれる営みを全うしている。彼女がいない私は、バッタのカップルにさえ嫉妬してしまう。早く自分も人生のパートナーと巡り合いたい……と、うらやましく思うと同時に、ふと違和感を覚えた。 シングルのメスやオスがほとんど見当たらないのだ。経験上、お見合いパーティーでは、カップル成立率はせいぜい10~30%程度と、そこまで高くない。男女ともにあぶれてしまった人がそれ相応に存在する。 特定の人だけがモテにモテたり、タイプでないとお断りされたりするから、誰一人あぶれることなく全員がうまい具合にカップルになるなど、理論上ありえない。カップリングの困難さは自身の経験からも裏付けられている。人間界だけでなく動物界においても、カップリングは困難を極めるやっかいな営みの一つのはずなのだ。 ところが、バッタの場合、あぶれた雌雄はほとんど見当たらない。そんなバカな。同志とも言うべきシングル同士で傷の舐め合いができないではないか。ほとんど全ての雌雄がカップルになれるとか、凄腕の仲人がいたって不可能だ。全員がカップルになれる夢のような状況は、許されない、許さない。 より意識しながらシングルの雌雄をあらためて探すも、やはり少ない。あぶれたオスはちょこちょこいるものの、メスのカップリング率は驚愕の高さだ。カップルだらけの中、一人で歩くのがなんだか恥ずかしくなってきた。