エンジン・プロペラなどで活躍できる先端素材…CFRPにCNT均一付着、ニッタの独自技術の効果
ニッタは炭素繊維の表面にカーボンナノチューブ(CNT)を均一に付着して複合化する独自技術「Namd(エヌアムド)」を用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の用途開発を進めている。従来のCFRP成形品よりも強度や耐熱性、軽さといった性能で上回る成形品を実現できるのが特徴。エンジンやプロペラなど幅広い航空機部品で活躍できる先端材料として、ニーズ開拓に本腰を入れている。(神戸・会津陸人) 【写真】ニッタの独自技術「Namd」を用いたCFRP繊維 CNTは直径がナノメートル(ナノは10億分の1)サイズの炭素のみで構成されるチューブ状の物質。アルミニウムの半分の密度で鋼の20倍の強度を持ち、銅よりも優れた熱伝導性を備え、工業製品への適用が期待されている。 高強度化を目的としてCNTをCFRP材料に複合化する場合、樹脂材料に添加する方法が一般的となる。その際、CNTの特徴を生かすには、強い凝集力を持つCNTを樹脂の中に均一に分散することが必要だが、技術的に手間がかかる。またCNTを添加すると樹脂が硬くなり、特徴である柔軟性が弱まるため、材料がもろくなりやすいデメリットもある。 ニッタの独自技術「Namd」は、CNTを樹脂中に添加するのでなく、分散剤を使わずにCNTを1本ずつバラバラにし、炭素繊維の表面で均一に付着・成膜させる。CFRPを構成する炭素繊維と樹脂の界面にCNTを配置することで、炭素繊維の強度と樹脂の柔軟性を損なわずにCNTの特徴を付与できる。樹脂中に添加する場合よりCNT使用量を少なく高強度化が図れるのも利点だ。 ニッタは2007年ごろからCNTの要素技術の開発に着手し、13年にCNTの分散技術を確立した。17年にはテニスラケットなどのスポーツ製品に同社のCFRP材料が採用されたことで、材料の品質向上や量産技術の開発が加速した。 その後、20年には高強度で厚いCNT膜を形成できる「2G―Namd」技術が完成。これにより、引き抜きやフィラメントワインディング(FW)など産業用途で使われるCFRP製法に対応可能となった。23年には同製品の専用工場が完成し、量産体制が整った。小向拓治テクニカルセンターCNT応用開発グループ部長は、「ニッタはスポーツ分野で実績を蓄積し、産業分野にも適用できる量産技術を確立した」と話す。 Namdを用いたCFRP成形品は、一般的なCFRP成形品よりも、強度や耐熱性、疲労耐久性の面で高性能を実現する。航空機エンジンなどの駆動系部品に用いれば、部品の冷却が不要になるといった利点が見込め、モビリティー部品でのニーズは高いとみる。既に、航空分野を含めた一般産業での採用に向けて複数社が検討段階にあるという。 ニッタは25年に航空宇宙品質管理規格「AS9100」の認証取得を目指しており、人材育成や専用設備の構築を進めている。CNTを活用した先端材料の開発力と量産に対応する生産体制を基盤に、付加価値の高いCFRPビジネスの確立に全力を上げる考えだ。