おぎぬまXのキン肉マンレビュー【コミックス第38巻編】~新章突入! かつての『キン肉マン』を倒すためにゆでたまご先生が選んだ方法~
開幕戦を託した選手は、テリーマンという最適解 完璧超人の残党が不可侵条約に納得いかず暴れている、というのはもちろんわかるのですが、単にこれだけだと鳴り物入りで始まった新章の敵が動き出す動機としてあまりに弱い。 もし本当にそれだけだと、逆にキン肉マンたちがそこに闘いの意思を向ける理由はただの暴徒鎮圧ということになってしまいます。しかしこれまでの闘いを振り返ると、バラバラになったミートを助けるとか、王位を奪いに来た邪悪神のたくらみからこの世を守るとか、もっと絶対的な闘う理由が常にあり、それが『キン肉マン』という作品の大きな特徴のひとつでもありました。 それらと比べると、何か異質にぼやけたこの導入の怖さ。もっとも彼らが動いた真の動機は、過去最大級のあまりに壮大すぎる話だったということが、後になってから徐々にわかってくるのですが......。 とにかく今は、この事態を正義超人がなんとか収めるしかない。しかし、ここで先のメディカル・サスペンションというフリが効いてきます。なぜなら、キン肉マンをはじめとする正義超人の主力組はほぼ不在。マトモに闘えそうなのはテリーマンとジェロニモしかいないにもかかわらず、その片割れのジェロニモすら一瞬で排除されてしまう容赦のなさ。 しかもこの後、敵を束ねるストロング・ザ・武道が、これまでのボスキャラと完全に違うというのがわかるシーンが描かれます。なんと組み合った超人タイルマンを人間にしてしまうんですよね。瞬殺とかノーダメージみたいなわかりやすい格付けではなく、明らかに普通の超人ではない能力を有している。それなのに自分は何者だと語りもしないこの不気味さ。 人間離れ――いや、超人離れした能力を持つ敵の親玉と、10体を超える不自然なほどに多い敵陣営。正義超人ファン感謝デーに集まったチビッコのように、ウッキウキでページをめくっていた読者たちは「どうやらこの新章が、ただの復活お祭り編ではなさそうだぞ......」と緊張感を抱いたのではないでしょうか。 結局、彼らに立ち向かえそうな正義超人は、現時点ではただひとり。正義超人軍テリーマンと、先陣としてその実体を見せた7名の完璧超人軍による対抗戦が開幕します。圧倒的不利のなか、しかしそのひとりがテリーマンというのはなんとも不思議な心強さも感じます。 対する最初の相手は"完裂"の異名をとる256cm/423kgのマックス・ラジアル。巨漢ハンターとも称されるテリーマンにはうってつけのマッチアップでしたが、新章1発目のこの試合、何より僕が驚かされたのは、息つく間もないほどのテンポの良さでした。 目まぐるしく入れ替わる攻守、技の応酬、逆転に次ぐ逆転のアイデア、往年の時代から連綿と続く『キン肉マン』らしさてんこ盛りの大勝負だったにもかかわらず、終わってみると試合開始から決着までわずか3週!? この大事な初代シリーズ復帰戦。熱狂的な肉ファンが新シリーズを〝認めるかどうか〟の試金石となったかと思いますが......まさか、現在の超絶作画と、ジャンプ連載時を彷彿させるオーパーツ的な試合構成術が組み合わさった、第一戦目にしてシリーズベストバウト級の名勝負になるとは誰が予想できたでしょうか!! これぞ『キン肉マン』! これぞ超人プロレス!と全ての読者を熱狂させた魂の一戦でした。 今となっては大成功したと断言できる新章復活劇にあたって、この試合の果たした役割は相当に大きかったのではないでしょうか。ありがとう、テリー!