農を学んで社会復帰 「拘禁刑」導入向け更生プログラム 北海道の刑務所が検討
知識得て出所者の立ち直り支援
受刑者の立ち直りを重視し、懲役刑と禁錮刑を一本化する「拘禁刑」の導入が来年6月に迫り、刑務所には更生プログラムの充実が求められている。北海道の三つの刑務所は、受刑者に農作業を経験させ、出所後の就農に結び付ける事業を実施。最終的には一般社会に近い、敷地外の農場で農作業をさせることで円滑な社会復帰につなげている。 帯広、旭川、網走刑務所は連携して、農業を通じ改善更生を促す「農業モデル」を2019年に始めた。出所後に仕事が見付からず、再犯につながる受刑者は多い。同モデルでは農業に関する知識や農機操作を習得させ、出所後の就農を目指す。 農業モデルは3段階あり、計1年8カ月で実践する。フェーズ1と2は帯広刑務所で進め、受刑者は農機操作や対人関係の講義を受けた後、敷地内の農場で作業する。大型車両の免許取得にも取り組む。フェーズ3は帯広、旭川、網走の3刑務所に受刑者を振り分け、実践的な農作業をする。帯広では敷地外のフェンスのない農場で作業させる他、近隣の農家で農作業支援もする。受刑者の選定には厳しい基準を設ける他、衛星利用測位システム(GPS)などを装着して脱走のリスクを抑えている。 帯広刑務所では2カ所の合計10ヘクタールで、トウモロコシやタマネギ、豆類などを栽培する。収穫物は受刑者が手がけた家具や雑貨などを扱う「矯正展」で販売し、人気を得ている。 農業モデルを受けて出所した89人のうち、7人が就農。出所者を雇用している道内のコントラクター(農作業受託組織)の代表は「素直に指示を聞き、真面目に働いてくれている。出所者だからと区別はしない」と話す。即戦力として活躍しているという。 拘禁刑が来年導入されることを見据え、帯広刑務所では自主性やコミュニケーション能力向上を重視するコースも独自に試行する。受刑者が作付品目の選定から関わり、今年はナガイモのフリーズドライ商品を開発した。 課題は人員の確保だ。現在は帯広で20人が農業モデルを実践しているが、刑務所の担当者は「農地をフル活用するには倍の人数が要る」と話す。厳しい選定基準に加え、受刑者自体の数も減少。全国から希望者を募るため、9月には受刑者の処遇・移送先を検討する全国の「調査専門官」を帯広に招き、見学会をした。 就農者の拡大へ、農業モデルを主導する法務省札幌矯正管区は農業法人などに働きかける。担当者は「現場での受け入れには不安もあると思うが、まずは面談で、人となりを見てほしい」と理解を訴える。前出のコントラクター代表も「先入観を持たずに接してほしい」と話す。 (小澤伸彬)
日本農業新聞