供給が増えないのに、新電力はなぜ電気代を安くできるの?
4月から電力の小売販売が全面自由化されます。全面と呼ばれるのは、電力を大量に使用する産業用、業務用などの電力販売はすでに自由化されているからです。 自由化されるのは主として家庭向けを中心にした販売です。需要量では全体の40%弱ですが、高圧の大口需要家と異なり、電圧が低く変電、配電の費用がかかるため電気料金の単価が高くなります。市場規模は約8兆円。契約口数も8000万以上の大きな市場です。 自由化されれば、家庭が電気を購入する相手は東電、関電などの地域電力会社から新たに電力小売を行う企業に選択肢が広がります。テレビでも電力販売の宣伝をよく目にするようになりました。雑誌も「どこから電気を買えば得か」という特集記事を組んでいます。 自由化すれば電気料金は下がると世間では信じられています。しかし電気の場合、料金値下げのプロセスはほかの商品やサービスと違っています。その点をふまえながら、なぜ自由化によって電気料金が下がるのかを説明していきたいと思います。
新電力は需要分の電力供給をすべてまかなえるの?
自由化すると供給が増え、競争の激化により料金が下がると思われている方も多いかもしれません。例えば、タクシー業界の規制緩和、すなわち自由化によりタクシー台数は大幅に増え、一時東京では500円タクシーも登場しました。しかし、電気はタクシーとは違います。自由化により電気の小売を行う会社の数は数百に増える予想ですが、タクシーと違って供給量は簡単には増えません。 なぜなら発電設備の競争力には燃料価格という不確実な要素があるため、設備がすぐに新設されないうえ、ほかの商品と異なり電気は在庫を持てないからです。 通常の商品は、製造メーカーがあり、それを流通させる問屋があり、そして消費者に売る小売りがあります。それぞれが在庫を持ち、商品の売れ行き、需要量に合わせ出荷を行います。需要が増えれば製造を増やします。 電気は発電所で作られ送電線を通し需要家に送られますが、在庫はどこにもありません。電気を貯めるためには蓄電池が必要ですが、そのコストは高く、導入が現実的ではないからです。 そのため、電気は需要に合わせて発電することになります。いま自由化されている産業用などの部門には新電力と呼ばれる特定規模電気事業者も、一般電気事業者と呼ばれる地域の電力会社と競争し、電力供給を行っています。2015年12月の実績では、自由化部門での新電力のシェアは8.3%でした。 新電力の多くは4月以降に家庭向けの販売も開始する予定ですが、そのための発電設備を持っているのでしょうか。 新電力は、供給量分の発電設備を保有していません。上記の図は日本の全発電設備の保有者を示していますが、新電力の保有設備量は1%もありません。14年度の実績では新電力の販売量の約3分の2はほかの事業者から購入してきた電力です。これで競争力がある電気を販売できるのはなぜでしょうか。とても安く電気を購入できるのでしょうか。電気のコストを考えてみましょう。