「モテないやつは出世できない」――オスを“品定め”するメスザルのシビアさは真夏の怪談よりも怖かった!【和田秀樹×池田清彦】
メスを敵に回すと“出世”できない
和田 メスがオスにステータスを求める、そういう行動は人間特有のものですか? サル山で「ボスのお気に入り」になったメスは、周囲に対してどこかマウントをとっている印象があります。 池田 マウントをとるということでわかりやすいのはニホンザルのオスで、自分より下位のオスに対してマウントをとる。 普通、他のオスとのバトルの結果、その集団で一番強い個体がボスの座に就くわけだが、もう一つ大事なのはメスにモテるかどうか。メスから嫌われていると、どんなにケンカが強くても追い出されてしまうことがあるんだな。
ボスザルの実子はどうして少ないのか
和田 何とも、人間社会の片鱗をみるようですね。ちなみにボスザルから一番の寵愛を受けるメスというのはどのようにして決まるものですか。 池田 群れの中心に長くいるメスで、末っ子が多いね。 サルのメスは、すべての子どもを平等に世話するわけではなくて、生まれたばかりの子どもを一番可愛がる。すると上の子は赤ん坊が生まれるたびにメスに放っておかれるから、どんどん自立してどこかへ行ってしまう。 逆に末っ子は下にきょうだいができないから、末っ子がメスだとずっと親と一緒にいて可愛がられ、体もどんどん大きくなって、群れの中心的な存在になっていくわけ。そこで順位の高いオスに交尾をせがまれることも多くなるわけだ。 和田 メスはそれを断ることはできないのですか? 池田 なかなか難しい。相手が好きでも嫌いでも、順位の高いオスに交尾をせがまれると、やっぱり無下にはできないよ。中世の時代、絶対的な権力をもった王様に迫られた町娘が拒み通したら殺されてしまうかもしれないのと一緒。 ただメスもしたたかで、順位の高いオスを受け入れはしても、生まれてきた子どもがそのオスの子かというと、必ずしもそうとは限らない。 和田 なんだか怖い話になってきました(笑)。 池田 サルのメスは発情するとお尻が赤くなるからすぐわかる。それをみたオスが交尾を迫るわけだが、排卵日まではわからない。 しかし、どうやらメス自身はその日が妊娠するタイミングかどうかわかるらしいんだな。そういう日になると、メスは群れの縁へ行って、お気に入りのオスと交尾してその子どもを産み、あたかも順位の高いオスとの間に生まれた子であるかのように育てるんだね。 群れのなかにいたら誰との子かなんてわからないけど、実際にDNA解析をしてみると、ボスの実子は思った以上に少ないそうだよ、サルの世界のことだけど。