今、《女子×理系》が注目を集める理由とは?「見えない壁」を乗り越えるために必要なこと
これからの社会に欠かせない視点
先進的なSTEAM教育を実践している千代田国際中学校・武蔵野大学附属千代田高等学院校長の木村健太氏は、生徒たちへの願いを次のように話しました。 「進路について、男子だから女子だからと意識する必要はありません。男女ともに、自分で調べ、自分で感じ、自分で考え、自分で決めることが重要です。そのうえで、経済的なことも含めて保護者とよく話し合って決めてほしい。そうすることで、本人の自己肯定感や自己効力感の向上にもつながります」 木村氏は、テストの点数だけで苦手な分野や得意な分野を決めてしまうことにも警鐘を鳴らしています。文系理系という明確な区分けは日本特有であり、また、大学院や卒業後は文理の壁を越えた知識や思考が必要になるからです。 自然科学研究機構(国立天文台など国立の研究機関を束ねる機構)に所属する小泉周氏も、女性の視点がこれからの社会に欠かせないと強調しました。 「科学の世界は今まで男性による男性のための研究をしてきました。世界ではそのことに対する反省が始まっています。これは、ジェンダード・イノベーションといって、性差やジェンダーに配慮した科学技術を促進し、すべての人の生活の質を向上させるという考え方です」
バイアスを無意識に受け入れる前のSTEM体験を
理工系をめざす女子の不安は多岐にわたります。その一つに、理工系学部への進学は、将来の職業が限定されるイメージが強いことがたびたび指摘されます。 この意見に関して田中氏は、「たとえば海外で働く近道は英語を身に付けることだけではなく、理系での学びがエンジニアとしての国際協力も可能にし、むしろ選択肢が広がるのでは」と答えます。 また、理工系に進学して友達ができるか、出産して両立できるかなどの質問も多いようです。背景には、「自身がマイノリティとなる環境で生活することへの不安」が見え隠れしています。 田中氏は、社会のバイアスを無意識に受け入れてしまう前に、小学校や中学校など早期から、自分が好きなこと、夢中になれることを見つける体験が必要だと言います。 「イギリスやドイツでは、女の子がSTEM分野で楽しんで取り組めるクラブ活動やアクティビティがたくさんあります。理系、文系という分け方ではなく、STEM(科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)を分野横断的に学ぶ)という枠組みの中で楽しめるアクティビティです。そのような体験を私たちとしても届けていきたいと考えています」 多くの人が自由な発想と情熱を持って活躍できる社会を実現するには、まずはさまざまなバイアスの存在に気付く必要があります。子どもたちの興味関心を尊重しながら、大人自身も価値観をアップデートしていくことが、取り組みの第一歩なのかもしれません。