「トラウマ必至」ホラー的演出がエグかった『ドラゴンボール』作中屈指の「恐怖描写」
■タマゴに抜け殻、タイムマシンで“現在”来ていた未知の生物の痕跡
ドクター・ゲロが作り出したセル。その登場も非常に不気味なものだった。 コミックス30巻。ゲロにより、人造人間17号と18号、さらに、未来を知っているはずのトランクスも知らない16号も目覚めてしまう。彼らは悟空を殺すため車を使って移動を開始した。 一方、カプセルコーポレーションのブルマのもとには、トランクスが未来から乗ってきたものとは別のタイムマシンの情報が寄せられ、その調査のためブルマ、悟飯、そしてトランクスが向かった。 機体全体が苔で覆われたそのタイムマシンは、かなり前から放置されたもののようだった。コックピットのガラス部分には高温で溶けたような大きな穴があり、シートの上にはイボイボのタマゴの殻が。ここで、トランクスが来る以前から正体不明の生物が“現在”の地球に来ていることが判明する。 さらに上空、神様の宮殿では「ぜ…絶望的な予感がするのだ……!!」と、冷や汗をかいて怯える神様の姿があり、なにやら不穏な空気が流れはじめる。 そして続く話数では、悟飯によって正体不明の大きな“抜け殻”も発見される。まるで昆虫の抜け殻のようで、その内部は粘液でベトベト……。トランクスもよく手を突っ込んで調べるものだと思ってしまうほど、非常に不気味な造形で描かれていた。 その後、神様は「いまの地球に必要なのは神ではない… 強者なのだ……」と、ピッコロとの融合を決意する。それほどの恐ろしい“化物”とはどんなものなのか、読者は恐怖に煽られた。 この時点ではまだ、セルの姿は明らかとなっていない。今回の敵は17号ら人造人間だけだと思っていたところに、古いタイムマシンに残されたタマゴや大きな抜け殻の異質さと、恐怖が増す描写が続いたのだった。
■本作屈指のスプラッター描写!? スポポビッチ苦しみながらの破裂
手榴弾で自爆した白桃桃やベジータに処刑されたナッパなど、本作は爆発やエネルギー波によって倒される敵は少なくない。しかし、スポポビッチの爆発死亡シーンはちょっと怖さのレベルが違っていた。 コミックス38巻。天下一武道会で悟飯のエネルギーを奪ったヤムーとスポポビッチは、ボスであるバビディのアジトまで戻ってきた。しかし、現れたバビディは「これでもう おまえたちは御用済みだよ」と言うとキッと目を見開く。すると次の瞬間、「うがあっ……!!!」「く……くごごごご…!!!」と、スポポビッチが激しく苦しみ出した。 目玉は今にも飛び出そうなくらい突き出しており、血管の浮き出た体は風船のように膨れ上がる。そして最後には「ボンッ」と爆散してしまった。ちなみにアニメ版では色も描かれており、青色っぽい鼻血まで出しながら苦しんでいた様子がさらに衝撃的だった。 先にも紹介したが、本作はその作品の性質上、爆散するキャラはそれなりにいる。しかし、その多くは一瞬でカタがつくものばかりだ。しかしスポポビッチの死亡シーンはそれらとは異なり、爆発までの時間と苦しみがあった。ゆえに、非常に痛々しく生々しい描写となっている。 さらに、スポポビッチの無惨な最期を見て一目散に逃げ出す相方のヤムーだが、こちらもバビディの部下プイプイによって殺されてしまった。命令をこなしてきた部下ですらあっさりと殺すような非情な奴ら……今回の敵も危険な相手だと思わせるシーンとなっていた。 今回紹介したものは、本作において異質の恐怖描写である。しかし、それは単なる恐怖だけにとどまらず、新たな敵の凶暴さや不気味さが増す象徴的なシーンになっていたように感じる。 面白いストーリー展開はもちろん、激しいバトル模様にギャグ、さらに恐怖もうまく使って、鳥山さんは『ドラゴンボール』という最高の作品を作り上げていたのだ。
海狸こう平