シリア恐怖支配を支えた収容所ルポ 死者数万人か 12年間拘束の男性「生まれ変わった」
今月8日に崩壊したシリアのアサド政権は、2011年に発生した反政府デモやその後の内戦で、反体制派に徹底的な弾圧を加えた。各地の軍・治安機関の収容施設や刑務所では裁判なしでの長期拘束や拷問、超法規的な処刑などが行われ、死者は数万人に上るといわれる。解放された収容者らの口からは、アサド政権の恐怖支配を支えた収容施設群の実態が語られ出している。 【写真】12年間拘束されていた監房。狭い空間に常に10人ほどが押し込まれた ■「生きて出られない」…首都の「215」ビル 行政機関が集まる首都ダマスカス中心部の一角に「215」と呼ばれる小ぶりなビルがある。軍情報機関の中でもテロ容疑者の拘禁や拷問で恐れられる「215部隊」の建物である。市民は内戦中、「あそこに入ったら生きて出られない」と噂した。 チュニジア人のアブーレイスさん(39)がここに収容されたのは、内戦が本格化し始めた2012年3月のことだ。反政府運動に身を投じるためにシリアへ入国した直後に逮捕され、そのまま裁判もなしに約12年9カ月を過ごした。 外国人の身柄は外交上の交渉カードにもなり得る。このため「シリア人収容者よりは大事に扱われた」が、1つの監房に10人ほどが押し込まれた環境は劣悪だった。ささいないさかいが原因で用を足す穴しかない1メートル四方ほどの独房に送られたこともあった。 朝食はパンに一握りのオリーブとジャムだけ。夜はトマト1個とジャガイモ半分をおかずに米や麦が与えられた。運動や日光に当たる機会はほとんどなく、杖なしでは歩けない体になった。薬物を注射されて息絶えた若者の遺体が職員に引きずり出されていくのを見た時の絶望は「忘れられない」という。 そんな日々は今月8日未明に突然終わった。反体制派の主力「シリア解放機構」(HTS)が首都に迫ったのを受け、看守らが建物を放棄して姿を消した。他の収容者たちと扉を破壊して外に出た時、「生まれ変わった気持ちになった」。 15日、アブーレイスさんは1週間ぶりに「215」に足を踏み入れた。同行した友人たちに自分の境遇を説明しながら、「ここにいたことで故郷(チュニジア)に帰ってもテロリストとして扱われるかもしれない。このままシリアで暮らすか迷っている」という。 ■収容施設ネットワークが国民を暴力で抑圧