シリア恐怖支配を支えた収容所ルポ 死者数万人か 12年間拘束の男性「生まれ変わった」
アサド政権下のシリアで、「ムハーバラート」と総称される軍や警察の情報機関は恐怖支配の「先兵」として恐れられた。上層部や主立った幹部はアサド大統領(当時)と同じ少数宗派アラウィ派で占められ、政権維持のために強権を振るった。
国連機関が今年6月にまとめたシリアの人権状況などに関する報告書は、11年以降の拘束者数が一時的なものも含めて約120万人に上り、報告書の時点で少なくとも13万5千人の拘束が続いていると指摘。拘束中に死亡した人は少なく見積もっても1万5千人を超すという。安否不明者の数はさらに膨らむ。
その上で報告書は、各情報機関の「収容施設ネットワーク」と、それらで恒常的に行われている拷問が国民を「暴力的に抑圧」するシステムを根幹から支えている-と指弾した。アサド政権崩壊後の暫定政府を主導するHTSは実態解明を進め、関与した指導層への追及を進める構えだ。
15日、ダマスカス郊外にある軍情報機関の別の施設では、マフムード・ハラブさん(60)といとこのアフマドさん(35)が、幹部職員の部屋に残された資料を読み漁っていた。15年に武装組織を支援したとの容疑で逮捕され安否不明となっている親族男性(37)の情報を探しているという。
「本当はこんな所に来たくなかった」。そう話すマフムードさんに理由を尋ねると、「自分も以前は軍情報機関で働いていたから」と答えた。
スンニ派のマフムードさんは軍内で冷遇され、「仕事は幹部の私生活の世話が中心だった」と語る。自分は拷問や不当な拘束には関与していないという意味なのか。言葉の真偽は判断がつかない。
「(探している親族は)もう死んでいるという人もいるが、私たちは信じていない」。マフムードさんはそれ以上語らず、手がかり探しを再開した。(ダマスカス 大内清)