ヒトiPS細胞10年 山中伸弥教授に聞く「日本の研究者厳しい環境アピールを」
(メモ) iPS細胞は皮膚や血液の細胞にある数種類の遺伝子を入れることで、ほぼ無限に増殖する能力と、神経や筋肉など様々な細胞に変化する能力を持たせた、いわゆる「万能細胞」。2006年に山中教授率いる京大の研究グループがマウスでの作製に成功、その後ヒトでの作製にも成功した。iPS細胞の命名は山中教授自身。少しでも多くの人に興味を持ってほしいとiPodにあやかって頭文字の「i」を小文字にしたという。今後研究が進めば肝臓や膵臓などの細胞をiPS細胞から作製できるようになり、細胞移植による治療が実現できるといったことが期待されている。また治療方法の見つかっていない難病の解明、創薬などの研究にもつながるとみられている。
再生医療「三次元」=臓器作製は研究途上。難病のための創薬にも期待
iPS細胞などを活用した再生医療の現状についてですが、例えば失明の大きな原因となっている加齢黄斑変性の治療について、iPS細胞由来の網膜色素上皮細胞を使う臨床研究は、近い将来結果が出るのではないかと期待されています。網膜色素上皮細胞は細胞が1種類でシート状の構造をしており、比較的作製しやすいと考えられます。大阪大学で進められている心筋シートも同様で、これらはいわば「二次元」の組織を作成して行う再生医療ですね。 これに続いて膵臓(すいぞう)、腎臓や肝臓といった臓器を作製する方向。いわゆる「三次元」のものを再生することは、まだ研究途上という段階です。 この三次元の臓器を作製するというのには3つの方法が考えられます。 (1)3Dプリンターを使って作製する (2)(ヒト以外の)動物の体内で臓器を作製する (3)条件を整えて培養すると、細胞が勝手に立体構造をつくる(自己組織化) ── という方法です。 3Dプリンターの活用は10年ほど前には「まさかそんなこと」という話でしたが、今の技術はかなり進んでいます。また完全な臓器を再生しなくても、助かります。例えばミニ膵臓のようなものができて、安定したインスリンを出す機能が実現できれば大きな助けになります。いずれにしても私が研究を始めたころと比べ、再生医療の研究スピードは急激に上がっているといえます。 また薬を創る研究に役立たせることも期待できます。難病といわれるものは現在、厚生労働省が指定するものだけでも300以上ありますが、患者さんから採血するなどして作製したiPS細胞を患部の細胞に変化させて研究することで、難病に対する創薬を早めることができる可能性があります。また創薬には副作用を確かめる工程にかなりコストがかかりますが、ヒトのiPS細胞から作った肝臓や心臓の細胞に薬の候補を投与することで、ヒトにその薬を投与した際の副作用をある程度予測することができると考えています。