ヒトiPS細胞10年 山中伸弥教授に聞く「日本の研究者厳しい環境アピールを」
子どもたちの理系離れ……もっと楽しさを伝えてほしい
将来の職業を考えたとき、子どもたちが理系を離れていくのは無理もないと思います。本来理科の実験などはもっと楽しく子どもたちの興味をひくもののはず。受験科目としての理科、科学になってしまう時点で急速に嫌いになってしまう。教える側の先生も大変だと思うのですが、小中学生にもっと楽しさを伝えてほしい。これは理系だけでなく、英語の授業などでも同じではないでしょうか。 今年、タモリさんとNHKでサイエンス番組をご一緒しました。タモリさんは28年前にも同様の番組を手がけており、私もワクワクして視聴した一人です。当時の番組によって科学を志した人も少なくないと聞きます。私もそれを感じさせる番組づくりに貢献しなければならないと思います。
研究資金、寄付は大事な地位を占める
新しい技術を実用化するためにはやはりある程度の研究費が必要ですが、研究費は助成金など公的なものにまだまだ頼る部分が多く、研究者が研究するためにはこうしたものに応募し、獲得しなければなりません(競争的研究資金)。資金を得られる期間も数年単位と短いものが多く、10年間などはまれです。こうしたものに対する報告などに追われる研究者も少なくありません。 研究者は芸術家に近い面も持たなくてはいけないと感じています。何かに追われるばかりでなく、ゆとりの時間を作り、その中で新しいアイデアを生む必要があります。また研究者が個室にこもっているだけでなく、他の研究者とディスカッションの時間を作ることもやはり大切です。研究者自身ももっとこうした厳しい現状をアピールしていかないといけません。ノーベル賞をいただいたのはやはり大きいことです。私自身はこうした環境を変えてほしいと発信することは厭いません。 研究のための資金として寄付というものも大事な地位を占めると思います。日本はアメリカに比べて寄付行為が活発でないとも言われますが、実際には寄付はしたくてもどうしたらいいのかわからない。ちゃんと寄付が研究などに生かされるかわからないという人も多いと感じています。税制面などの後押しを進めていただければもっと追い風になるのではと期待されます。 私自身、京都マラソンの完走チャレンジによって寄付を募りました。クラウドファンディングにも積極的に取り組んでいます。こうしたことはきっかけであり、マラソンへチャレンジする様子を見てiPS細胞研究基金のことを知った人も多い。水面に石を投げたようにじわじわと広がっていると感じています。