“米国金融界の獅子”ジェイミー・ダイモンに聞く「強い企業の作り方」─不況も好況も乗りこなす、「要塞のような企業」を作るには
ホワイトハウスがまず電話をかける男
JPMCのCEOジェイミー・ダイモンは、2025年末落成予定のこの新社屋建設事業に心を傾けてきた。空調から照明、カーペットに至るまで、すべてが彼の承認を受けたものだという。 ダイモンの新しいオフィスからはマンハッタンが一望できるだけでなく、その階下では、全従業員30万9000人のうちの1万人が働くことになる。ジョン・ピアポント・モルガン(1837-1913)が153年前に創業したJPMC。その銀行を20年間率いてきたジェイミー・ダイモンのキャリアの集大成であり、その支配の象徴ともいうべき建築物である。 青い目をしたダイモンは、単なるウォール街の狼ではない。米国の金融界における獅子といえばいいだろうか。2008年の金融危機を耐えて、いまも米国の大手金融機関のCEOを務め続けているのは、ダイモン以外にはいないのだ。 サブプライム・ローン問題、新型コロナウイルス感染症、2023年のシリコンバレー銀行の破綻など、米国の経済に衝撃が走るとき、ホワイトハウスがまず電話をかける相手がダイモンだ。 そのダイモンは68歳になったいまでも、金融業界で記録的な利益を次々に出している。2023年にJPMCが出した利益も、過去最高の496億ドルだった。
とにかく別格の存在
2024年5月、フランスのマクロン大統領がヴェルサイユ宮殿に米国の主要な銀行家を集めて会合を開いたことがあった。このときもマクロンが何かにつけ最初に発言を求めたのは、「友人のジェイミー」だった。 テーブルには、ブライアン・モイニハン(バンク・オブ・アメリカ)、デービッド・ソロモン(ゴールドマン・サックス)、テッド・ピック(モルガン・スタンレー)などの大物も集結していたが、誰も首席格のダイモンを差し置いて発言することはない。 どの基準で見ても、誰もダイモンに遠く及ばないのだから仕方がない。まずは影響力が段違いなのだ。ブルームバーグの最新のデータによれば、JPMCの総資産は4兆1430億ドル。2位のバンク・オブ・アメリカより8850億ドル(約140兆円)も多い。自己資本利益率も21%で、主要な競合金融機関の平均13%を引き離している。 株価を見ると、JPMCの時価総額は6821億ドルで、バンク・オブ・アメリカの2倍だ。欧州大陸第一位のフランスの銀行、BNPパリバと比べれば約8倍だ。BNPパリバのCEOジャン=ローラン・ボナフェは、ダイモンに次の賛辞を贈る。 「ジェイミーは、金融業界における破格の人物です。その強みは、自分の周りに仲間を集めるのが巧みなところです。優れたチームを作れると、遠くまで行けますからね。思慮深さを失っていないのも見事です」 フランス最大のPEファンド「アルディアン」の創設者ドミニク・セヌキエは、ダイモンを次のように評する。 「普段は経営者に心底敬服することのない私ですが、ジェイミーは数少ない例外です。この業界では珍しく、人の話に耳を傾けてくれますし、思いやりもあるんです」 地上最強の銀行家になって、2023年だけで3600万ドル(約57億円)という銀行家として世界最高水準の報酬を得るには、何をすればいいのか。度重なる金融危機を切り抜けて20年弱で総資産を4倍に増やすのには、どんな秘訣があるのか。なぜ銀行家なのに、核兵器の拡散や人工知能(AI)に関心を抱くのか。 私たちはジェイミー・ダイモンにインタビューをして、これらの問いに答えてもらうことにした。ナポレオンの信奉者であるダイモンは、マクロン大統領から授与されたレジオンドヌール勲章を機会があるたびに身に着けるという。 そんな彼が、自分の帝国の扉を開き、成功の秘訣のいくつかを私たちに明かしてくれたのである。(続く) 第2回では、ジェイミー・ダイモンの成功の軌跡をたどる。20代だった彼は、どのようにして自分の働く会社を選んだのか。突然の解雇に見舞われたのち、いかにして銀行家として再び存在感を増していったのか──。
François Miguet