野村萬斎「狂言という文化を受け継ぎながら、どう生きていくか。その精神を『ハムレット』と共に息子・裕基に継承して」
〈発売中の『婦人公論』4月号から記事を先出し!〉 演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続ける名優たち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が聞く。第27回は狂言師の野村萬斎さん。第3の転機は今だと語り、「萬斎のおもちゃ箱」や映像作品など、新たな挑戦を始めているそうで――。(撮影=岡本隆史) 【写真】17歳で『三番叟』を披いた萬斎さん * * * * * * * ◆病弱という初めて演じる役柄に 萬斎さんはまた、井上ひさし作品『藪原検校(やぶはらけんぎょう)』や、『シャンハイムーン』にも出演している。 ――ええ、『藪原検校』はものすごいエログロ作品で、盲人が殺しや女犯をなど、悪の限りをつくす芝居ですけどね、それを僕は嬉々としてやって(笑)、再演までしましたからね。 その後『シャンハイムーン』では魯迅を演じましたが、それまで僕はどちらかと言えばオイディプス王にしても藪原にしても、強い生命力のある演じ方に慣れていました。蜷川さんからそんなふうな演技術を学んだこともあって。 しかし魯迅は病弱という初めて演じる役柄。そこではまず、猫背にならなきゃいけない。僕はストレートネックでしたから、それが大変でした。 でも猫背を習得してみると、そのほうが声が出やすくなるという利点もあって。今は年齢を重ねたせいか、狂言の舞台でも首が前に出てきたかな、という気がしています(笑)。能・狂言の世界には「四十、五十は洟垂れ小僧」という言葉があることはあるんですけどね。
◆父から自分、そして息子へ 2023年は萬斎さんが演出する二つの舞台があった。シェイクスピアの『ハムレット』と、オペレッタの『こうもり』。特に前者では、能がかりの先王の亡霊の扱いと、狂言仕立ての旅役者の趣向が際立つ演出だった。 ――ああ、そこが僕の演出の特徴ですからね。お能というのは亡霊専門劇ですから、亡霊のリアリティは得意とするところ。怨念とか情念を伝えるものだという意味で、こっちはプロですからね。 そして旅一座のくだり。あそこはどのプロダクションでもいつもうまくいかずにダレるんですよ。ちょうど『ハムレット』の中盤に出てきて、芝居の背骨となる場面なんですね。そこをどう面白く、かつメインのストーリーにつなげていくかを一番考えましたね。 批評家の中にもそこを指摘される方はいなかったので、そう言っていただくのはありがたいです。 喜歌劇の『こうもり』は、看守のフロッシュ役が上方落語の桂米團治さんだったので、三幕だけの出演じゃもったいないなと思ってね。最初から活動弁士のように登場させて、「バカですねぇこの人たち」って、一つの批評性を持たせる役割にしたんです。 時々中央に出てきて歌ったり踊ったり、そういう自由度も入れて。おかげで大いに盛り上がってましたね。