なぜ南米選手権、クラブW杯、北中米W杯がアメリカ開催となったのか? 現地専門家が語る米国の底力
ベッカム、メッシ獲得も狙い通り。MLS成功の秘訣
――アメリカで女子サッカーの試合を取材した際、試合や大会が始まる前に花火を打ち上げたり、メディア向けのビュッフェが用意されていたりして、お金のかけ方が他の国とは違うなと感じました。それも集客の戦略なのですね。 中村:「お金をかけないと儲からない」という先行投資のマインドが強いと思います。スポーツチームの経営の評価も「その年が黒字か、赤字か」を示すPL(Profit and Loss statement:損益計算書)よりも、チームとしての資産価値が今後どうなっていくかを示すBS(Balance Sheet:貸借対照表)に注目しています。だから、1年目で50億円の赤字が出ても、「それは3年後にチームの資産価値が800億になるための投資」などと考えて、先にいい人材やスタジアムを作ることに投資する。花火のような演出や、おいしいものを食べられる店がなければお客さんは来ない、という感覚なんですよね。 ――可能性に賭けて、かなりの巨額を動かしているのですね。 中村:それはMLSにも言えることです。MLSでのプレー経験を持つデビッド・ベッカム氏が引退して、インテル・マイアミの共同オーナーになって、リオネル・メッシ獲得のキーマンになった。それは、まさかここまでうまくいくとは思っていなかったとしてもMLSの狙い通りでした。ベッカムというスターにお金を投資して、彼が引退した後にオーナーにして、メッシを連れてきたことで、結果的にリーグとしてはさらに儲かりましたから。メッシの契約には、引退した後にオーナーになってチームを安く買える条件が入っていると聞いています。そうなったら、メッシが引退後にMLSクラブのオーナーになって新たなスターを呼ぶことはもちろん、リーグの信頼度向上につながる可能性はあるんじゃないかと思います。 ――そのサイクルで、 チームの資産価値も上がっていくのですね。ハリウッドセレブやトップアスリートがチームのオーナーになってお金を投資する流れも加速していますよね。 中村:そうですね。投資対象のスポーツは、「有形的、直接的に儲かるか儲からないか」だけが狙いではないんです。例えばインテル・マイアミに投資しただけでは儲からないかもしれないですけど、ベッカムのビジネスパートナーになれる。NWSLのエンジェル・シティに投資した瞬間に、ナタリー・ポートマンやセレナ・ウイリアムズ、他の有力者たちとビジネスパートナーになれるんですよ。投資する人は、そのステータスやアクセス権を買っています。例えば、マンチェスター・ユナイテッドを買ったグレーザー家は、ユナイテッドで儲けようとは思っていないんですよね。ユナイテッドのオーナーになれば、イギリスの王室に連絡して、招待状を送れます。オーナーという肩書きはそのための絶大なる信用状で、名刺になるわけです。加えて、スポーツフランチャイズ(興行権)の価値は一つしかないものなので、あまり下がることがない。MLSも1996年には500万ドルだったのが、今では10億ドル以上と言われています。そういう意味で、いい投資対象になっているんです。