なぜ南米選手権、クラブW杯、北中米W杯がアメリカ開催となったのか? 現地専門家が語る米国の底力
CONMEBOLコパ・アメリカ2024(南米選手権)、FIFAクラブワールドカップ2025、FIFAワールドカップ2026。今年から再来年にかけて、サッカーの主要国際大会がアメリカで次々と開催される。なぜ、アメリカに開催権が集中しているのか? MLS(メジャーリーグサッカー)の興行面での成功も含めて米国サッカーに注目が集まっている背景について、ニューヨークに拠点を置き現地のスポーツビジネスに精通したBlue United Corporation代表の中村武彦氏に、専門家の視点から語ってもらった。 (インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=AP/アフロ)
名だたる大会がなぜアメリカに集中しているのか?
――中村さんはMLS(メジャーリーグサッカー)やFCバルセロナの国際部などを歴任され、アメリカを拠点にスポーツビジネスを展開してこられました。CONMEBOLコパ・アメリカ(南米選手権)、来年はFIFAクラブワールドカップ、再来年はFIFAワールドカップと、主要な国際大会がアメリカで集中して行われる理由をどのように見ていますか? 中村:ヨーロッパや南米の次に伸びるマーケットとして、近年アジアや北米が注目されていて、いろいろな企業がアジアツアーや北米ツアーを主催しています。どこも国内が飽和状態なので、海外進出を狙っていますから。アメリカにはスポーツビジネスのプロが揃っていますし、競技に興味がない人も楽しませるノウハウを持っているのが強みだと思いますし、誘致におけるプレゼン能力も高い。通訳なしで複数言語をしゃべれる人が多いことも大きいと思います。 MLS時代にメキシコ代表のUSツアーを担当したことがあるのですが、メキシコ代表の親善試合は、メキシコ国内よりもアメリカで行う試合の数のほうが多かったんです。メキシコ系の移民を対象にしている企業が、メキシコよりもアメリカのほうが強くて、興行のために高いお金が払えたからです。そういうことが重なって「アメリカで試合をするほうがビジネスになる」ということで、今は「イタリアのスーパーカップやプレミアの公式戦をアメリカでやろう」という話も出て、法廷争いにまで発展しました。アメリカで試合や大会を開催することはビジネスの面でもメリットになるということは大きいと思います。 ――アメリカはスポーツ観戦が文化として根付いていますが、戦略的に集客する力も持ち合わせているわけですね。 中村:そうです。開催国に最も問われるのは「多くの観客を楽しませるスタジアムがある」ことだと思いますが、サッカーが好きな人だけで満員になるのはヨーロッパなど一部の地域だけです。アメリカでは「サッカーも好きだし、バスケも好きだし、野球も好き」という人が多いですし、サッカーには興味がない人がいても、みんなで行ったらバーやレストランで楽しめるし、アトラクションがあって子どもも楽しめるからスタジアムに行こう、となる。どうやったら満員になるかを逆算して、スタジアムの盛り上げ方も戦略的に考えられるのは強いですよね。 ――集客力の背景を考えると、マーケティングやプロモーションなどの土台となるマンパワーの影響も大きいのでしょうか? 中村:それもありますね。労働の文化は日米で違いますが、アメリカは終身雇用は少ないですし、プロ契約で実力がある人はどんどん高い給料で引き抜かれます。競技問わずそのメソッドは一緒で、バスケもアメフトもサッカーも、優秀な人はどんどん引き抜かれて給料も上がっていく。そういう人たちがまたいい仕事をして競技を盛り上げるサイクルが出来上がっています。 ――契約社会と言われるだけに、実力がなければふるい落とされていく厳しい社会でもあるのですね。 中村:「これだけお金を払うから、リターンはこう設定しよう」と白黒はっきりしています。MLSで同僚だった高級取りのビジネスマンは、代理人を付けて契約交渉していました。その一方で、解雇になっていった多くの同僚たちも見てきました。