宮台真司は『サタデー・フィクション』に何を感じたのか? ロウ・イエ監督と考える美学的な生き方
インタビューを終えて
日本公開の前日、多忙なロウ・イエ監督が30分だけ割いて下さった。かつて『二重生活』のプロモーションで来日された折の公開トークで、僕が「巷ではヤリチン男に制裁が下るフェミニズム映画だとされているが、IT事業で大成功したのに“こんな筈じゃなかった”的な不全感ゆえに過剰な空回りをする男の映画だ」と評したのを覚えておられ、謝意を語られた。 80年代半ばから約十年間、僕は『二重生活』の主人公に似た生活を送っていた。“こんな筈じゃなかった感”ゆえに新興宗教に入るのも、“こんな筈じゃなかった感”ゆえに強迫的なナンパ師になるのも、所詮は同じ神経症だと感じていた。だから深く刺さった。監督の作品はいつも刺さるが、今回の映画は、様々な偶然の一致もあって他人事として観られなかった。 古い日本映画に通暁し、今の日本社会の情況も理解しておられる監督は前回、中国の都市部の生活はどんどん日本に近づき、やがて区別できなくなると仰っていた。今回はあまりにも短い時間だったので、尋ねたいことは数多あったが禁欲し、監督に了解をとった上で、僕が受け取った体験を監督にフィードバックし、コメントを返してもらう形にさせていただいた。 (文=宮台真司)