安保法成立への韓国のジレンマ 朴大統領に新たな懸案?
集団的自衛権の行使を可能にすることなどを柱とする安保関連法が19日未明に成立しました。政府は東アジアの安全保障環境の変化などを法整備の理由の一つとしていますが、野党などは「戦争法案」と批判しました。海外に目を転じると、安保法成立に米国は歓迎の意を評しましたが、中国は反発しています。そこで、韓国はこの安保法制をどう受け止めているのか、「コリア・レポート」編集長の辺真一氏に寄稿してもらいました。 【写真】韓国の朴槿恵大統領が反日的な4つの理由/辺真一
手厳しい中国の反応とは温度差
安保関連法が成立したことへの韓国の反応は、「専守防衛政策と戦後の平和発展の歩みを放棄するのかとの疑念を国際社会に生じさせている」との中国の手厳しい反応とは異なり、「平和憲法の精神を堅持しながら地域の平和と安定に寄与する方向で透明度をもって推進していく必要がある」と当たり障りのないコメントを出しただけで留めています。明らかに温度差があります。 中国と異なるからといって、安保法制を容認したわけではありません。朴槿恵(パク・クネ)大統領は昨年7月に訪韓した習近平主席との首脳会談で安倍政権に対して「自国の国民の支持も十分に得られてない政策を止めて、防衛安保政策を平和憲法により沿った方向に透明性を持って推進すべきである」と釘を刺していました。韓国の政界もこぞって批判しています。 政権与党のセヌリ党は「日本を戦争ができる国につくり、過去の軍国主義に戻ることを明らかにしたもの、国際社会の平和を害するものである」と痛烈に批判する談話を出しています。野党の新政治民主連合も「平和憲法を崩壊させ、軍事大綱化への道に向かおうとする安倍政権の暴挙を断固糾弾する」と同じく辛らつでした。国民も総じて否定的です。ソウルの駐韓日本大使館前や蔚山公園内の平和の少女像前では小規模ながら「再武装の試みを中断せよ」と安倍政権を糾弾するスロガーンを叫んでいました。
日韓首脳会談や米国訪問を控え
それでも、韓国政府が今回、直接的な批判を控えたのは、今週国連で日韓外相会談をまた、11月に掛けて日韓中及び日韓首脳会談を韓国で予定しているため安倍政権を刺激するのは得策でないとの判断があるからです。また同盟国・米国の目も意識せざるを得ません。 朴大統領は来月16日に訪米を控えています。中国のアジアインフラ投資銀行に加わったことや「抗日戦勝式典」に出席したことでギクシャクした米国との関係修復が何より急務です。そのオバマ政権は安保法制を歓迎しています。ここで反対を表明すれば、それこそ訪米が台無しになります。さらに、安保法が北朝鮮の脅威の抑止に繋がれば、結果として韓国の安全保障に寄与することになるとの軍事的な側面も考慮に入れざるを得ません。韓国が中国と見解を異にしたのは、韓国が抱えるジレンマの表れと言えなくもありません。そのことは、韓国のメディアの社説にも現れています。