なぜ働いているとごきげんではいられなくなるのか【佐久間宣行×三宅香帆 特別対談】
スマホの「連絡」を遮断して「好き」のための時間を作る
三宅 テレビ、ラジオ、YouTube……さまざまなジャンルで働かれているなかで、本は読めていますか? 佐久間 全盛期に比べて減ってはいますが、もともとは深めのSFとミステリーが好きです。最近はゲームクリエイティブ関連を多く読んでいて、直近だと「ぷよぷよ」の生みの親である米光一成さんの著書『人生が変わるゲームのつくりかた ――いいルールってどんなもの?』(筑摩書房)を読みました。 三宅 ゲーム関連本、盛り上がってますよね。 佐久間さんはSFの話を友人とするのが好きと拝読しました。私の場合、リアルの読書仲間の友人もいますが、信頼する本好きのブロガーさんのおすすめを読むことも多いです。 あとは興味がある分野やテーマに沿って、自分の中の問いに答えてくれそうな本を書店やネット上で選んで、隙間時間に読む。 佐久間 ブロガーさんの情報は侮れないですよね。僕も演劇や書籍、映画のことに詳しいブロガーさんが広島や名古屋、北海道など各地にいるのでしょっちゅうウェブをパトロールしに行きます。 ちなみにSFとミステリーに関しては大学時代の同級生のAくんがその分野のヲタクで、ラーメンに関しては義兄が筋金入りのラーメンブロガーなので、彼らに聞いてますね(笑)。 漫画はずいぶん前から電子書籍で購入していましたが、最近は小説もiPadで読むようになりました。拡大できるし、バックライトがあるから、読みやすくて。 あ、そうだ、ホリー・ジャクソンの『自由研究には向かない殺人』(東京創元社)、青崎有吾さんの『地雷グリコ』(KADOKAWA)、あとはラランド・ニシダの新刊も読みましたね。 三宅 ラランドのニシダさんて、めっちゃ文豪っぽい小説を書く方ですよね。というかYouTubeを見ていると、周りが助けてくれるところを含め、ご本人もまるで昔の文豪のような。 佐久間 そうなんですよ。クズキャラで、文章がやたら面白い。アイツは石川啄木とか太宰治の後継者なのかもしれない(笑)。三宅さんは隙間時間に読まれるとのことですが……。 三宅 活字がないと生きていけない人間なので、お風呂の中、あとはドライヤーをしながらも読みますね。たくさん積んである本のストックが本棚に並んでいるので、読む本はその日の気分で選んでいます。 佐久間 僕は移動中に読むことが多いんですけど、他のタスクによって分断されると、内容がしっかりインプットできないのが残念で。 それで最近は、スマホを置き、交通系ICのアプリをダウンロードしたApple Watchと本を持って出かけるようになりました。強制的に連絡を遮断することで、本の世界に没入しに行ってます。 三宅 めちゃくちゃ共感します。メールやLINEを気にし出すと、本に集中できない。個人の意見ですが、本や漫画を読ませなくする最大の原因は「連絡」なんじゃないかと。 佐久間 ですよね。電子書籍で読むときは、ネット環境を遮断するためにiPadのWi-Fiを切る。あるいはLINEなどのコミュニケーションアプリなどを何もダウンロードしていないMacBookも持っているので、それで読むことも。 三宅さんはそこまでして本を読む理由はなんですか? 三宅 私の場合は、「読まなきゃやってらんない!」というのが一番の理由です。 今の時代は忙しい人が多いので、本に限らず音楽や映画など文化全般における趣味が遮断されやすい環境だと思います。 好きなものに触れる時間を守るという点で、私の場合は、この方法をとっているのかもしれません。 佐久間 僕も周囲から「どうやって映画や演劇を観たり、本を読んでるんですか?」としょっちゅう質問されるのですが、例えばゴルフって、最初はしんどさが勝るけど、コツをつかむとどんどん面白くなるって言うじゃないですか。それと一緒で、好きなことの楽しみ方にもコツがあるんですよね。 時間がある時期に一旦どっぷり浸かってみると、楽しみ方が掴めてくる。それがわかると、短い時間でも十分に楽しめるようになると思います。 つい先日も、めちゃくちゃ忙しい時期にもかかわらず、若手のお笑いライブをしれっと観に行き、何食わぬ顔で会議に戻りましたから。仕事をサボりたいわけではなく、別の世界に没入することで、頭の切り替えになったり、心が豊かになれるんですよね。 三宅 会社員時代、仕事が辛くなった時こそ、コートのポケットに本だけ忍ばせ、ちょっと逃避しに行く……みたいなことをしていた記憶が甦りました(笑)。 ぱっと非現実に飛ばしてくれるエンタメの没入体験は、気分転換になるし、ごきげんが取り戻せる。いい仕事をするうえで、とても大事なことだと思います。 佐久間 エンタメの中でも、三宅さんがメインとする本(活字)が、今の時代に果たす役割は何だと思いますか? 三宅 現代はSNSを見てもYouTubeを見ても、自分へのおすすめが流れてくる時代。だからこそ、自分とは違う立場の人の声に耳を傾けることがなかなか難しいのかなと感じます。 すると、他人(作者や著者)の濃い思想や価値観に、一定の時間をかけて浸れる媒体って、活字くらいしかないと思うんです。本一冊はわりと長いので、著者の新しい思想をしっかり理解できる。それが本の良さかなと。 佐久間 世の中に溢れる膨大な情報のなかで、本当に伝えたいことが誤解されずに伝わるのが本というメディアのよさでもありますよね。ラジオの生放送やVtuberのライブ配信なんかもそれに該当するのかな、と。 三宅 本当にそうで、ラジオや配信も、長い時間人の声を聴くメディアですよね。時々、テレビやYouTubeで書籍のプロモーションをさせていただく機会があるのですが、圧縮して短い言葉で話さないといけない。 視聴者が多いからたくさんの方に届くけれど、一方で、誤解を招くケースもあるな、と感じます。自分の伝えたいことを10万字以上も受け止めてもらえる本という存在は、本当にありがたい。 佐久間 ラジオのイベントでも「このお祭りみたいな出来事を楽しんで、お互いの生活をまたそれぞれ送って、そのうえでまた会いましょう!」と言うんです。 今の時代に生きていくってやっぱり大変だから、自分の世界の中にカルチャーを含めた好きなものを持っておくことは、救いになるし、時には自分を守る武器にもなってくれると思うんですよね。 取材・文/広沢幸乃 ※「よみタイ」2024年12月28日配信記事
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