習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー首相が「人権」について問い質すやいなや
<G20の場で6年ぶりの英中首脳会談が行われたときのこと。イギリスのスターマー首相が中国で収監されている英国籍の民主活動家について懸念を表明したときの中国側の行動に、欧米では驚きが広がった。一方で習近平は、「世界発展支援のための8つの行動プラン」を発表>
ブラジル・リオデジャネイロで開催されたG20首脳会議で、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席と会談したイギリスのキア・スターマー首相が人権問題に言及し始めると、習の側近がカメラの前に飛び出して撮影を妨害したことが映像で明らかになった。 【動画】人権問題に関する質問から側近が習近平を守った瞬間 11月18日に行われた対談は、2018年以来初めての英中両首脳の直接会談となった。両国の関係は、イギリスの旧植民地である香港における民主主義の弾圧や政治的自由の悪化など、多くの問題をめぐってぎくしゃくしている。 労働党のスターマー政権は、保守党の前政権よりも中国に対して柔軟なアプローチを示し、気候変動など共通の課題に対する協力の必要性をまず強調した。 首相官邸が発表した資料によれば、スターマーはその後習に対し、「見解の異なる分野についても正直かつ率直に取り組む」と述べたという。 ブルームバーグが公開した動画で、スターマーは「わが国の外務大臣と中国王毅(ワン・イー)外相が最近会談し、人権や台湾、南シナ海、香港に対する共通の関心など、それぞれの関心事について話し合ったことを非常に嬉しく思う」と、語った。 人権問題に触れた途端 その後、「刑務所内で黎智英(ジミー・ライ)の健康状態が悪化しているとの報道を懸念している」と、スターマーは続けた。 香港紙「リンゴ日報」の創業者、黎(76歳)は英国籍の民主化運動家で、現在詐欺罪で服役しており、2020年香港国家安全維持法(国安法)に基づく裁判が再開されたところだ。 カメラが習の反応を捉えるべく方向を変えようすると、中国側関係者が現れてカメラの前に立ちはだかり、撮影者を含む報道陣を部屋から追い出した。報道陣が中国代表団の指示に従わざるを得なかった理由は不明だ。 「中国でならともかく、これはブラジルで起きたことだ。にもかかわらず報道陣は中国側に聞いていい質問と聞いてはいけない質問を決められていた」と、ロンドンのシンクタンク英国王立防衛安全保障研究所のアソシエイトフェローで中国アナリストのサリ・アーホ・ハブレンはX(旧ツイッター)に書き込んだ。 「ジミー・ライの話題は中国側が行動を起こす引き金になったようだ」 ブルームバーグの動画にコメントを寄せたある人物は、サミットで首脳たちが「本質的な」議論に移る際に、報道陣が主催者から退席を促されるのはよくあることだと指摘した。 だが今回、カメラが習に向こうとした途端に報道陣が中国代表団に従わざるを得ないと感じた理由はわからない。 その他一部には、イスラエル・ガザ紛争に対する偽善的な立場や、イギリス警察の言論弾圧疑惑についてスターマーを批判するコメントもあった。 中国の「レッドライン」 習は11月16日にジョー・バイデン大統領と会談し、「民主主義と人権」は、「道とシステム」および中国の「発展の権利」、そして中国の言う台湾の民主主義とともに、中国にとっての「レッドライン(越えてはならない一線)だ」と述べた。 中国による香港への支配はさらに強化された。11月19日、香港で最も著名な民主活動家や議員45人に対し、2020年9月の立法会(議会)選挙に向けて非公式の予備選を実施したことが政権転覆の罪にあたるとして4年~10年の実刑判決が下された。 民主活動家らは2020年の国安法(国家安全維持法)に基づいて起訴された。法律の内容は曖昧で、市民の自由を侵食し、反対意見を封じるための武器にされてきたと批判されている。 アメリカやEUが強く非難するこの判決によって、香港の政治的自由は大きく制限された。1997年のイギリスによる香港返還後、中国は50年間自治を維持すると約束していた。
マイカ・マッカートニー