「すぐに忘れる」「お金を盗んだ騒ぐ」にも理由が。認知症の人はこんな世界が見える
症状悪化を招くマイナスの4ステップ
認知症のために記憶することが苦手になると、ご本人は「あれを聞かなければ」「あの話をしたかしら」と、不安な気持ちで過ごすようになります。認知症の人の訴えに対して「何度もいわせないで」「前にもいったでしょう」と叱責したり、「ハイハイ」と適当な返答をしたりしても、認知症の人の不安は解消されません。「不安」が解消されないままでいると、ご本人は「不満」を抱き、やがて周囲の人に「不信」を抱くようになります。 それが最終的に「不穏」に進むと、介護への抵抗や暴力・暴言といった認知症の行動・心理症状(BPSD)となって現れるのです。こうしたときに、精神を安定させる薬を処方されることがありますが、薬の影響で体調に変化が現れると、かえって混乱を助長して症状が強くなる可能性も考えられます。 行動・心理症状は、このように不安→不満→不信→不穏というマイナスの4ステップを経て悪化していくと考えられます。ここで指摘しておきたいのは、不安→不満→不信→不穏と症状が進む過程で、認知症の人が発するのは不安だけであることです。不満→不信→不穏と症状が進行する原因は、むしろ介護者や家族の側にこそあるケースが多いのです。実際、介護者や家族の誤った対応が引き金になって、症状が強く現れることが少なくありません。 症状が強く出るのは、不安が大きいことの裏返しといえます。だからこそ、適切なケアやコミュニケーションを通じて、認知症の人の不安を取り除くことがとても重要です。たとえ認知症になったとしても、日常生活の不安を解消できれば、不満→不信→不穏に進行することを食い止めることができます。 不安を解消するには、生活の中でいかにホッと「安堵」する瞬間を作れるかが大切です。安堵する時間が多くなると、それが「安心」となり、安心が定着すると「安着」になり、最終的には「安穏」と呼ばれる状態になります。そうすれば、認知症の人でも何事もなく平穏に生活できて、行動・心理症状を防ぐことにもつながります。
川畑智、遠藤英俊、浅田アーサー