吉原の灯を消してはいけない

中江では、本店の他に個室で桜鍋を堪能できる場所として、吉原の中心に別館も構えている。 元々この建物は、明治から続く吉原最後の料亭「金村」だった。白志さんが、いつものように犬の散歩で不動産屋の前を通りかかったときのこと。ふと、不動産情報の張り紙でこの建物が売りに出されていることを知る。 吉原の文化や江戸の粋を伝えてきたお店だけに「故き善き吉原の灯を消してはいけない」との想いからこの建物を買い取り、13年前に中江の別館として活用されることになった。 別館金村では、貸切の個室で桜鍋を味わえるだけでなく、芸者遊び体験、さらには落語やお茶会などさまざまなイベントスペースとしても活用されている。 吉原と聞くと、風俗街という怪しい雰囲気の漂うエリアというイメージも強い。だが、白志さんが企画するような街歩きイベントの開催を通じて、今では少しずつどんな人でも訪れやすい土壌ができ始めている。 近年では人気アニメ『鬼滅の刃・遊郭編』でも話題になり、来年放送される大河ドラマ『べらぼう』も吉原が舞台だ。今後も注目を集めるエリアとなるだろう。 馬肉の新メニュー開発に、地域振興と精力的に活動する白志さん。だが、5代目の時代もそう遠くはないという。 「うちは代々継ぐ年齢が若いんですよ。息子は小学生の時から継ぎたいと言ってまして、数年したら5代目の店になるでしょうね。息子には好きなようにしてもらいたいので、口出しする予定はないです。40年分の休みを取り戻すために、私は世界一周に出ようかと思います」 老舗店では後継者問題がよく取り上げられるものの、創業120年を迎える中江の歴史はこれからも続いていく。5代目になった中江も、楽しみでならない。