経営も育児も「選択と集中」─ウィズグループ奥田社長に聞く“理想”の見つけ方
「壁は壊すより、登るほうが良い」、「一枚一枚壁を集めてくっつけたら、ステージになるでしょ」 【続き】育児の最中、奥田社長が「心に決めていた」と語ること 株式会社ウィズグループ代表取締役の奥田浩美は、あっけらかんとそう言って笑う。ITを利用したコミュニティ作りをおこなうウィズグループ社長業のかたわら、各地(僻地)で「破壊の学校」を主催し、公官庁や地方自治体ではさまざまな委員を務め、「未来からやって来た」と自己紹介する。この人に、本当に壁なんかあったのだろうか。 だが、「何が壁なんだか」もわからず、泣いたこともあったという。原点となったインドでの経験から、独自の育児理念まで聞いた。 ──早速ですが、奥田さんのキャリアにおける「最大の壁」を教えてください。 「最大の壁」というとどうしてもインドでの経験になってしまうので、それは後でお話しするとして……。私が社会に出てからぶつかった一番の壁は、「会社が潰れるかもしれない」という経験をしたことです。 最初は「リーマンショック」のとき。私が独立したのは1991年、社会に出て1年半のときでした。イベントマーケティングを請け負う会社を作ったのですが、当時の顧客のほとんどがグーグルやマイクロソフトといった外資企業。ところが2008年の9月、一気に予算が凍結され、億規模の事業が全部なくなってしまった。 それをどう乗り切ったかというと、「自分以外にもっとダメージを受けている人がいるんじゃないか」と考え、他の人から学びました。 リーマンショックでは世界中の人が影響を受け、私の会社以上にもっと打撃を受けている人がいた。だから、会社を縮小するとか、長い間資金をもたせるとか、「やれることをたくさん人から学んだ」ということです。そして「何か壁があったときに、その壁を感じているのは自分一人じゃない」と気付けたことも大きな学びでした。 その後も、同じ種類の壁は何度もやって来ます。東日本大震災、新型コロナウイルス……。自分一人じゃ乗り切りない、けれども、世の中に自分と同じ問題に直面している人がいっぱいいるとしたら、そこで何か協力して、とりあえずいまを乗り切ろうという視点になりますよね。 先日のトークイベントでもお話したように、壁というのは「壊す」のではなくて「上に登る」ほうが良いと考えています。壁の上に登って、この壁を壁と感じている人がどれくらいいるのかを眺める。自分はそのなかの一人であって、この壁の上から見える景色を皆に伝え、その解決策を皆で一緒に考えていこう、そういう考えです。 たとえば、一人の女性が会社でのポジションに悩みを持っているのも一つの壁。その壁は、本人からすると自分一人だけが直面している壁に見えます。ですが、誰かがそこをよじ登って、「いやいや、これは私たちの問題じゃないんだ」と。「日本の問題じゃないか、いや世界の問題じゃないか」というふうに教える女性がいるとすれば、私はその「一番最初に壁に登る人間」であろうと決めています。 ──経営者でもない一般の視点から言うと、奥田さんが直面された壁はすごく大きな壁という感じがします。 大きな壁じゃなくても、「これまで破った壁は何ですか」と問われたら、会社で「お茶汲みを止めた」とか、そういうことです。「ずっと続いてきたけれど、私はやりたくない」という壁を破りました。 やりたくないのに「やらなきゃいけない」という壁があったら、最初にそれを変えてしまえば良い。大きな壁の手前に、目の前には小さな「今日夕飯作りたくないのに作る壁」みたいなものがいっぱいあると思うので(笑)。まずはそれを、「いいじゃん、作らなくて」とスイスイって乗り越える。そういうことの積み重ねをしてきたと思います。 もし、お茶汲みを止めたことで誰かに反感を抱かせたとしても、私はいつも「未来の人がどう評価してくれるか」だけを考えていました。いま、講演のときに必ず「未来から来ました」と自己紹介するのも、閉鎖的な環境で私の理想を掲げても、その場の多くの人には届かないから。目の前の9割の人を説得するより「私はそれを変えようと思う」と話して、そのうちの1割の、ついて来てくれる人と一緒に壁に登ろうと考えています。