救急隊は「けいれんじゃない。大丈夫」と搬送せず、でも3歳の息子は重度の知的障害に 信じたのに…今も苦しむ家族、救急現場で求められる対応とは?
ただ、消防庁が2023年に全国の消防本部に行ったアンケート調査では、救急現場での緊急度判定は医療機関を選ぶために実施した事例が最も多く、不搬送を決める目的で活用したという消防本部は少なかった。搬送を見送らない理由として各消防本部からは「説明に時間がかかり、現場滞在時間の短縮につながらない」「同意を得るのが困難」などが挙げられており、消防庁は「原則は全て搬送するというのが現状」と話す。 ▽乳幼児搬送の77%は入院の必要ない軽症…重症事案の経験少なく 小児救急医として多くの診療に携わった井上理事は、幼い子どもならではの救急現場での判断の難しさを指摘する。自らの症状を説明するのが難しく、両親の説明やデータから状態を確認する必要がある。だが、例えば血圧や酸素飽和度を測定する際、子どものサイズに合わせた器具が救急車に整備されているとは限らない。 消防庁によると、2022年に急病で搬送された乳幼児のうち、76・8%は病院で入院の必要がない軽症と診断されている。井上理事は「高齢者と比べると救急隊員及び救急救命士が幼い子どもの重症事案を経験したり、学んだりする機会が少ない。みんな不安を感じながら対応しているはずだ」と話す。
現場で経験を重ねる機会や教育体制が十分でないことを危惧し、日本臨床救急医学会の小児救急委員会は、救急隊が評価と処置をトレーニングできるコースを2015年から毎年、対面やオンラインで実施している。座学や人形を用いたシミュレーションが行われ、委員会によると、これまでにのべ500人以上が参加。「定期的に受けたい」と高評価という。 井上理事はこう強調する。「適切なトリアージをするには異常に気付くための訓練が必要になる。こういったコースのように隊員や救命士が能力を高める機会を増やしてほしい」