救急隊は「けいれんじゃない。大丈夫」と搬送せず、でも3歳の息子は重度の知的障害に 信じたのに…今も苦しむ家族、救急現場で求められる対応とは?
「あわや」という事例もある。昨年6月末、千葉県船橋市で1歳の結ちゃん(仮名)の顔色が悪く、呼吸も早いことに、母親が気付いた。結ちゃんは0歳のときに呼吸の状態が悪くなり、入院したことがある。数日前に風邪の症状で小児科を受診し、薬はもらっていたが、不安が募った。自宅にあるパルスオキシメーターで酸素飽和度を測るとかなり低い値が出た。熱はないが、名前を呼びかけても目を閉じる。異常を感じ、すぐに救急車を呼んだ。 救急隊は結ちゃんの呼吸状態などを確認。酸素飽和度も測定し、正常の範囲内と判断した。母親は自らの測定結果や、普段と様子が違うことを訴えた。しかし「病院に行っても帰される。自宅で休ませた方がいい」と搬送に消極的な姿勢に不信感を覚えたという。 母親は看護師で医療の知識があったが「こちらの話はまともに取り合ってくれなかった。娘が心配で動揺している時に矢継ぎ早にたたみかけられ、言い返せなかった」と振り返る。 ▽「なんで救急車を呼ばなかったんですか」に言葉を失う
救急車をやむなく見送った後も、結ちゃんの苦しそうな様子は続いた。小児科に電話するも予約は既にどこもいっぱい。手を尽くし、ようやく救急外来の予約を取り付けた。外来で酸素飽和度を測定した看護師は顔色を変え、すぐに通された診察室。「お母さん、なんで救急車呼ばなかったんですか」。医師に強く問いかけられ、母親は言葉を失った。 結ちゃんはその後、気管支ぜんそく発作などで6日間入院した。現在は全快している。船橋市消防局は「症状が軽いと判断し、早急に処置が必要な状態と思わなかった。結果としては医療機関に搬送すべきだった。判断に不足があった」と認め、家族に謝罪した。 母親は「あのまま家で様子を見ていたらと思うとぞっとする。取り返しのつかない事態にならないよう再発防止に努めてほしい」と訴えている。 ▽消防庁「原則は全て搬送するのが現状」 総務省消防庁が定める救急業務実施基準によると、傷病者の死亡が明らかな場合や、本人や家族が搬送を拒んだ場合は「搬送しない」としている。また、2013年度以降には傷病者の状態に応じて適切な搬送先を選ぶため、救急現場で緊急度を判定する指針が策定された。判定手順などを各地の消防本部向けにまとめた2020年の手引書では、緊急性が低いと判断した場合は自力での受診を勧め、同意の上で不搬送とすることも対応例として示している。