救急隊は「けいれんじゃない。大丈夫」と搬送せず、でも3歳の息子は重度の知的障害に 信じたのに…今も苦しむ家族、救急現場で求められる対応とは?
診察室で医師は、健ちゃんを一目見るなり奥の処置室に運んだ。人工呼吸器を付けられ、慌ただしく集中治療室(ICU)に。「急性脳症の疑いがある。亡くなる可能性もあります」。医師の言葉に両親はぼうぜんとした。 健ちゃんは一命を取り留めたものの、けいれん重積型急性脳症と診断され、重い知的障害が残った。一家の生活は激変した。保育所に通い始め、語彙が増えて喜んでいたところだったが、退園せざるを得なかった。現在は4歳になったが「パパ、ママ」と言うことも、呼びかけに返事をすることもなくなり、意思疎通に苦労する。健ちゃんをサポートするため、母親は正社員として働くのを諦めた。不意の動きで怪我をしたり、家族に噛みついたりしないように自宅でも絶えず見守る必要がある。「体は大きいのに0歳になっちゃった感じ。一日一日が必死で精いっぱい」と母親はつぶやく。 ▽意識レベルの低下を「眠っている」と誤って評価されるケースも
日本小児救急医学会の井上信明理事(54)は、今回の事案について「救急隊員は、子どもが呼びかけや、体に刺激を加え痛みに反応するかといった意識レベルの確認は必ず行うはずだ。ただし、子どもの場合は意識レベルの低下を『眠っている』と誤って評価されるケースがある。つくば市の救急隊員がどのような評価をしたのかが焦点となる」と指摘した。 つくば市消防本部は「観察の結果、緊急性が低く、家族からの同意が得られたと判断し、搬送を見送った」と対応に問題はないとしたが、過失がなかったか調べるため2024年3月、弁護士2人、医師1人による検証委員会を開いた。 家族はあの夜の場面を何度も思い出す。「『大丈夫』との言葉を信じ、同意せざるを得なかった。判断ミスと認めてほしい。搬送していたら脳のダメージを少しでも軽くできたのではないか」。全容の解明を願っている。 ▽搬送に消極的な姿勢に不信感、でも動揺する母は隊員に言い返せず