「ザ・リッツ・カールトン京都」が本気で米づくりから手がけた日本酒とは
館内を見わたすと、数多くの地元の人びとが、ラウンジやレストランでお茶や食事を楽しんでいる。地域活動を通して地元に調和し、愛されている証だろう。
北嵯峨でつくった酒米「祝」で唯一無二の酒「水明」を
同ホテルは開業10周年記念にあわせ、Made For Kyotoの一環として、ホテルスタッフが酒米づくりに取り組む「オリジナル日本酒プロジェクト」をスタートさせた。歴史的風土特別保存地区に指定されている右京区・北嵯峨での田植えからから約8ヵ月を経て、オリジナル日本酒「水明」が誕生。これには、「祝(いわい)」という京都府内でできた酒米を使用しており、すべてのプロセスにホテルスタッフが携わったという。
北嵯峨には、歴史的風土保存区域の中でも特別指定を受けた美しい里山風景が残る。 「いにしえより稲作や農業が盛んな土地ですが、昨今は後継者不足のため放棄農耕地が増加し、水田や稲穂がたなびく美観が失われつつあります。さらに、化成肥料や農薬の多用による生態系への影響も取りざたされているのです」(アドプランツコーポレーション代表・増永滋生さん) 今回の取り組みでは、地域バイオマス堆肥や乳酸菌、有機質バイオ肥料をつかって酒米・祝が育てられたという。 「水田にはタガメやゲンゴロウ類が生息し、夏にはホタル、秋にはトンボが飛び交うような昔の環境をつくることにより、北嵯峨の美観復興の一助となることを目指しました」(増永さん)
オリジナル日本酒・水明は、同ホテルがセノグラフィー(空間演出)とする山紫水明から命名。水流の躍動感あふれるラベルはホテルスタッフがデザインした。ボトルの首の部分には点字で「酒」と記されている。 水明を提供しているレストランは同ホテルの日本料理店・水暉。会席、鮨、天麩羅、鉄板の4セクションで構成される同店は南北に広がっており、南を天、北を地と見立て、天井の照明は不規則に漂う雲をイメージしてデザインされた。東側一面は大きなピクチャーウィンドウになっていて、ホテルフジタから受け継いだ石垣に流れ落ちる滝を望める。
そんな水暉では、天麩羅、鮨、ステーキとともに水明を味わえる「開業10周年記念特別会席コース」を用意している。ほかでは味わえない唯一無二の日本酒を、特別な料理と心ゆくまで楽しみたい。 text:鈴木博美、photo:佐藤良一