LGBTQ+の割合は約10%? “彼氏が女装に目覚めたアラフォーカップル”のリアル
女装子として、かつての同僚との飲み会へ...
ある日、うさぎ君は満を持したように、かつての会社の同僚との親睦会に"女装子"として出かけることにした。 そう、白いワイシャツを着て海外出張を繰り返していた頃の同僚との飲み会だ。黒いラメ入りの体の線があらわなニットドレスを着込み、下着のラインが出ていないか、しきりに気にしている。 「あたし、キレイ?」 「キレイ、キレイ」私は答えた。 どう見ても私よりお肌も髪もツヤツヤで、いきいきしている。 同僚の企業戦士たちももう50を過ぎた、いいおっさんだ。ドイツに滞在していた頃はうさぎ君が一番年下だったから、定年間際の男性もいる。四ツ谷のこじゃれたレストランで、その飲み会は始まった。 「ハーイ、皆さん! あたし誰だか、わかるぅ?」 「???」 「野原でーす! うさぎ君と呼ばれていまーす。今日はカミングアウトがてら、みんなに会いたくて来ましたー♪」 ギョギョギョッ!! な空気。 「の、のはら? ホントに??」 「ホントでーす!」 その場にいた全員が凍りついたか、はたまた理解を示したか、わからない。でも、少なくともなんらかの啓蒙にはなっただろう。約9%の人間がすぐ身近にいるという事実に、そろそろ慣れてもいい頃だ。いや、うさぎ君に触発されて女装を始める男が出てこないとも限らない。
私はと言えば、現在、開業医として多忙な日々をおくっている。自分の采配でクリニックをマネジメントできるから、雇われ院長の頃よりずっと自由度が上がり、やりがいもある。ドイツ語の翻訳の仕事も頼まれるようになった。 別にうさぎ君に不満もないし、このままパートナーで一緒に年をとっていくのも悪くない。何と言ってもうさぎ君は興味深い存在だし、時々アッと言わせてくれるし、一緒にいて楽しい。 そりゃBMWに乗ってドイツロマンチック街道を疾走する駐在マダムになるという憧れがすっかり消えたわけじゃないけど、今のこの状態は居心地がいいし、無理に変えようとも思わない。 これでいいのだ~♪これでいいのだ~♪♪ 畳の部屋で上級煎茶を飲みながら、私は独り呟くのだった...。
石野リサ(皮膚科医)