渡邉恒雄さんが週刊朝日元編集長に語っていた「スクープの秘訣」から「女性遍歴」まで
■政策より下ネタ好きの小泉純一郎元首相 山口 読売の社告で戦争責任論をやるというのを見て、「ああ、やられたな」って心底思いました。 渡邉 満州事変での陸軍の暴発をはじめ、サイパンが陥落して日本は降伏せざるを得ない状況だったにもかかわらず、どうしてアメリカは原爆を落とすことになったのか。もっと早く降伏できなかったのか。当時の状況を克明に取材して戦争責任について記事にしていくべきだというのが僕の考え。当時の鈴木貫太郎首相にもポツダム宣言を黙殺すると言明した責任はあったし、天皇も責任をとって退位すべきだった、という人もいる。戦争責任のキャンペーンを終えたら、次はソ連が8月15日の終戦になってから満州に攻め込んだことについて徹底的に調べ、かつ批判するつもりだよ。 山口 渡邉さんは政治部時代、記者というより政治を動かす側に回っていたとよく言われますが……。 渡邉 駆け出しのころ、ある大物政治家の会議の取材を庭の中からのぞいていたら、会議の中に朝日の記者が入っていた。「すげえな」と思った。バカヤロー解散など抜かれた経験は山ほどありますが、本当の特ダネを取ろうと思ったら、虎穴に入っていかなければダメだと認識したんです。ただ、金銭的な恩恵を受けたらいけない。僕は大野伴睦(元自民党副総裁)に可愛がられて、あるとき「小遣いに困ったらいつでも言ってくれ」と言われた。でも、当時僕は文春や現代とか週刊誌にアルバイト原稿をジャカジャカ書いて月給の倍ぐらい稼いでいたから「必要ないですよ」と言ったんだ。それからいっそう信用されるようになった。 山口 渡邉さんは、日韓国交回復の元となった「金・大平合意メモ」をスクープしていますね。それで聞きたいと思っていたんですが、今年8月に韓国が公開した外交文書に右翼の大物、児玉誉士夫氏と読売新聞ワタナベ記者が関与していたと書かれています。これは渡邉さんのことですね。 渡邉 その文書を見てないのでわからないが、児玉さんは当時、KCIAの幹部で駐日本代表部参事官のSとべったりだった。僕も取材でその幹部に会おうとしたが、日本政府は彼の電報を暗号解読していて、僕に内容を教えてくれた。彼は自分の手柄を大げさに韓国に知らせている男だと知って急遽会合を止めたことがあった。韓国が公開したという外交文書は、その男が手柄自慢に打ったものでしょう。あのころ、児玉さんは韓国の軍やKCIAとつながっていたと思います。 山口 それで特ダネは? 渡邉 実は「金・大平合意メモ」のたたき台は、僕も入って数名で会議をしてつくったんです。ところがメモの内容がなかなか実行されない。池田勇人首相は大平外相が事前許可なしにサインしたことにハラを立てていたと思う。そこで、外務大臣がサインした文書を実行しないのはおかしいと僕が大野伴睦に進言したら、それはもっともだという。ところが僕が大野さんに言ったものだから、メモの存在が大野さんの口から漏れだしたので、あわてて記事にしたんですよ。僕が大野さんに教えてやったネタなのに、それで抜かれたのではたまらないからね。