「あれ、大事にされてない…?」観光地から塩対応されたご当地銘菓 若き5代目が果たしたリベンジとは
大分県臼杵市に「臼杵煎餅」というご当地銘菓がある。江戸時代の参勤交代で、携行食に用いられたという、生姜の風味豊かな菓子だ。2019年に創業100年を迎えた後藤製菓は、臼杵煎餅のシェア1位。5代目の後藤亮馬代表取締役(34)は、大学卒業後に入社した家業の抱えるさまざまな課題を目の当たりにしてショックを受けた。創業100年の節目に老舗5代目が取り組んだ、思い切った改革とは? 【動画】専門家に聞く「事業承継はチャンスだ。」
◆8歳の時に書いた将来像
----小さい頃から家業を継ぐことを意識されていたのですか? 当時、町工場のような自宅横の工場で、毎日煎餅の焼ける匂いを嗅いで育ちました。 家業は、当たり前に生活の一部でした。 承継については、洗脳教育をされていた感じです。 例えば、8歳の時に将来の自分がどうなっているかを予想した「タイムカプセル」には、「会社を継いでいて、従業員を雇っていて、新しい菓子を作って、商売繁盛、大もうけ…」と書いていました。 振り返ると、本気で継ぎたいというより、周囲に誘導されていたという方が適切かもしれません。 今、大もうけ以外は全部実現していますが(笑)。 ----大学は地元で進学し、比較的自由に過ごされていたのですね。 親は、大学は猶予期間としてどこでも行ってこいという感じでした。 私も、家業に入る以外の道に進みたいという強い気持ちもなく、地元の大分大学に進みました。 実家から通っていたので、結局地元から一歩も出ていません。 同級生が就活を始める頃になり、このまま家業に入って大丈夫なのかという焦燥感を覚えました。 そこで、通信制の菓子専門学校で学んだり、簿記の資格を取ったりしました。
◆今までの認識とのギャップに悩む
----大学卒業後の2013年、予定通りに後藤製菓に入社されます。実際に働いてみて、どうでしたか? 工場でパート社員と菓子を製造したり、父と一緒に百貨店や観光地に営業に回ったり、幅広く何でもやりました。 顧客回りをすると、今までの自分の認識とのギャップに気づき始めます。 小さい時から、「臼杵煎餅はすごいんだぞ」と教育され、疑っていなかったのですが、実際はどうもそうではない。 顧客にとって重要な商品である感じがしませんでした。 品切れしていても、お願いしないと発注すらしてくれません。 臼杵煎餅の主な顧客層は60代以上で、若者どころか40~50代にもあまり支持されていない。 煎餅は手塗りの工程に特色があるので発信したらどうかと考え、イベントで実演してみても全然反応がなく、がっかりでした。 社内も問題が山積でした。 特に労務関係に課題が多く、従業員は有給休暇の「ゆ」の字もないような状況で働き、月末の給与遅延もありました。 こんな状態だとは、入社前は全く知りませんでした。 ----そういった課題に、どのように対応されたのでしょうか? 外での経験も積まず、無計画に家業に入ったことを後悔しましたが、今更やり直す時間もありません。 中小企業の経営相談に乗ってくれる「よろず支援拠点」という所に、わらにもすがる気持ちで通いつめ、税理士に財務について聞いたり、社労士に労務関係のことを尋ねたりして、必死に勉強しました。 また事業引継センターの紹介で後継者育成塾に通い、経営について学びました。 入社から5年ほどの期間は、自己研鑽をしながら課題を一つひとつ解決していきました。