「みんながやってないから私もやらない」 日本を支配する“周りと違うことをしていなければOK”という空気(中川淳一郎)
日本特有の「努力義務」「お願い」って空虚な言葉だわ。強制ではないからペナルティーも罰金も発生しないため、まず、人々は様子見をする。周りを見てそれらをしている人が少なかったら「まぁいいか」と努力しないし、お願いも無視する。 【写真をみる】「みんながやってないから私もやらない」 身近な例といえば?
例を挙げると2023年4月から開始した自転車乗車時のヘルメット着用の「努力義務」です。3年間ダラダラと続いたコロナ騒動の時、「マスク着用のお願い」を散々された結果、都会の着用率は私の体感値で99.7%はあった。これだけ「努力義務」「お願い」に従順なる日本国民は果たして自転車ヘルメットではどうなるか! 99.7%はいかぬまでも95%ぐらいはいくかもね、何せマスクが大好きな日本国民は「民度が高い」ですからね。なんてことを自転車に乗らない部外者の私は思い、ワクワクしながらその日を待ちましたが、結果は拍子抜け。当日、メディアは着用率を観測しましたが、「初日まばら」といった報道になりました。 NHKが2023年9月に放送した報道によれば、同年7月時点で最も高い着用率は愛媛県の59.9%、もっとも低かったのは新潟県の2.4%で、全国平均は13.5%。 元々小中高生の通学にヘルメット着用を求めるような自治体は高かったのでは? といった調査結果でしょう。私がいる佐賀県では、佐賀市の高校生はヘルメットを着けていますが、唐津では着けていないです。自治体・学校ごとの方針があるのです。
そして2024年10月現在、ヘルメットかぶって自転車に乗ってる人、多いですか? 全然いませんよね? その上、車道を逆走するヤツやら、歩道を全力で走るヤツもいる。結局、「みんなが『努力義務』『ルール』を破っているから私も破っていい」ということなんですよ。 これが日本を戦前から支配する「空気」というものです。行動原理は「周りと違うことを自分はしていないかどうか」の一点に絞られる。マスクについては「うわ、オレ以外全員してる。マスク着けなくちゃ!」となった。 一方、ヘルメットを買い、2023年4月1日、新年度にヘルメットを着けて家を出たものの、「あれ、思ったよりもヘルメット着けてない……。こんなもん着けていたらせっかくセットした頭が蒸れるし、乱れる。1週間様子見てみるかな」などと思うわけです。 そして、夏到来。この頃になると「努力義務」なんて言葉はどこかに行き、人々はノーヘルで自転車を疾走させる。努力義務を発動したお役所もしれーっとヘルメット着用率の低さには目を背け、「まぁ~、コノォ、元々努力義務でして、強制ではないですからな、ガハハハ。一応われわれは注意喚起だけはしましたわ(笑)」となる。 あとは、エスカレーターの片側空けもやめるよう呼びかけられていますが、わが誇らしき協調性のある日本人は他の人々が片側を空けているからそれに従う。あまつさえ、両側に立つ人たちに対しては「チッ」と舌打ちをし、強引に肩をぶつけてズンズンと進む。素晴らしく民度の高い国ですね。法の強制がなくても他人の目で秩序が保たれる。
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) 1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。 まんきつ 1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。 「週刊新潮」2024年10月31日号 掲載
新潮社