名だたる甲子園常連校を次々と撃破した島根の県立高…雨の日は泥だらけで守備練習する「昭和デー」、校名もトレンド入り
夏の甲子園では、大社(島根)が93年ぶりとなる8強入りを果たした。早稲田実業(西東京、早実)を破り、準々決勝へと駒を進めた3回戦は、「高校野球史に残る」とも称された一戦。ナインがタイブレイクの延長十一回を制した瞬間、球場に響き渡った約2万2000人の大歓声は、記者にとっても忘れられない出来事になった。
島根大会では、バントや走塁といった小技を絡め、試合巧者ぶりを発揮。甲子園でも1点を争うような接戦をものにし、初戦の報徳学園(兵庫)、2回戦の創成館(長崎)、そして早実と、名だたる甲子園常連校を次々と撃破する戦いぶりに感動した県民は、決して少なくないだろう。
地方の公立校が強豪の私学校を負かしていく。今回のような構図は高校野球ファンにとっての妙味の一つだ。2018年の夏には金足農(秋田)による「金農旋風」が巻き起こった。記者も今回、甲子園で取材を続けながら、応援の輪が日を追うごとに大きくなっていくのを感じた。
出雲大社が近く、部員全員で必勝祈願に行くことや、雨の日に泥だらけになって守備練習をする「昭和デー」があることも話題を集めた。試合後のX(旧ツイッター)では「めっちゃ元気をもらった」「出雲の神様も喜んでる」などの書き込みがあふれ、「大社高校」がトレンド入りしたこともあった。
ナインの活躍は、県内の球児たちの刺激にもなっている。新チームによる県高校秋季野球大会では、出雲商が62年ぶりに優勝した。ほかにも、4位と奮起した大田が、来春の選抜高校野球大会に出場する21世紀枠の候補校に選ばれるなど、活気づいていると感じる。
大社の石飛文太監督(43)に改めて夏の快進撃について尋ねると、「島根で磨いた力が全国にも通じる、との証明になったのであればうれしい」と返ってきた。一方で「でも、大社がぶっちぎりで強いわけじゃない。周りが大社に続けというのなら、うちも負けていられない」と、言葉に力を込めた。
「生徒の夢は無限大」。石飛監督が早実戦後に語った言葉だ。聖地を駆ける選手の姿はとてもまぶしく、もっと見ていたいと思わせる輝きがあった。山陰の長い冬が終わった後、大社ナインに続く県内の選手らは、どんな〈夢の続き〉を見せてくれるのだろうか。今から楽しみだ。(小松夕夏)